ジャパンにとって615日ぶりのテストマッチとなった注目のブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ戦(現地時間6月25日、エディンバラ)は10対28で敗れたものの、後半は10対7と健闘するなど、成長の跡が随所に見られました。次戦は7月3日、ダブリンでアイルランド代表と対戦します。
前々号で述べたようにライオンズは4年に1度編成されるイングランド、ウェールズ、スコットランド、アイルランドの精鋭たちによるドリームチームです。スタメンはウェールズ代表148キャップ(ライオンズを含めると157キャップ)を誇るロックのアラン=ウィン・ジョーンズ選手、アイルランド代表89キャップ(同94キャップ)のスクラムハーフ、コナー・マレー選手など世界的な選手がズラリと名を連ねました。ベンチにはイングランド代表93キャップ(同97キャップ)、スタンドオフ/センターのオーウェン・ファレル選手が控えるという豪華な陣容です。
ライオンズが赤のジャージーを纏ったため、この日のジャパンは紺を基調としたセカンドジャージーに身を包みました。スタメンにはフランカーのリーチ・マイケル選手、プロップ稲垣啓太選手、スタンドオフ田村優選手、ウイング松島幸太朗選手らベスト8入りを果たした19年W杯日本大会メンバー14人が名を連ねました。
予想通りジャパンは前半から劣勢を強いられました。素早いボール回しで攻撃を仕掛けたものの、下から抱え上げるライオンズのチョークタックルに苦しめられ、インゴール付近までは攻め込めません。守備では左サイドを崩され、前半だけで3トライを許しました。前半は0対21。後半9分にもトライを加えられ、最大で28点差がつきました。
後半10分、ジェイミー・ジョセフヘッドコーチ(HC)は選手を一気に4人も入れ替えました。フランカー姫野和樹選手、スクラムハーフ齋藤直人選手、ナンバーエイトのテビタ・タタフ選手、プロップのヴァル・アサエリ愛選手――。
これが功を奏しました。19分、ジャパンは敵陣右サイドでラインアウトを獲得。フッカー坂手淳史選手のスローをロックのジェームス・ムーア選手がキャッチしました。そこからモールを組むと見せかけ、左からボールを受けた姫野選手が突破を図りました。タタフ選手、ヴァル選手らの援護もあり、インゴール右中間へねじ込みました。田村選手がコンバージョンキックを決め、7対28。29分には田村選手のペナルティーゴールでさらに3点を追加しました。
試合後、ジョセフHCは「18カ月ぶりのテストマッチとなったが、チームがまとまって試合に臨めたことを誇りに思う。後半は自分たちのスピード、スキルで勝負できた」と手応えを口にしました。
後半の健闘ぶりは試合後のスタッツ(ライオンズHP)を見ても明らかです。前半44%だったジャパンのボールポゼッションが、後半には67%にまで上昇しました。犯した後半の反則もジャパンが4に対し、ライオンズは8。ライオンズの規律の乱れは、ジャパンの攻撃に手を焼いた証でしょう。
それにしても近年、ジャパンの後半の強さには目を見開かされます。思い出すのは19年W杯日本大会1次リーグでのアイルランド代表戦。前半を9対12で折り返しましたが、後半に入って相手の足が止まります。暑さの影響もあったとはいえ、後半はジャパンが優位に立ち、19対12で逆転勝ちを収めました。
後半に強いジャパン――。昔のジャパンを知る者にとっては隔世の感があります。03年W杯オーストラリア大会の1次リーグ初戦でジャパンはスコットランド相手に4点差にまで迫りますが、後半20分を過ぎてから“ガス欠”を起こしてしまいました。
この時のメンバーである伊藤剛臣さんから、こんな話を聞きました。
「僕らの時代はラスト20分までは踏ん張れる。でも、そこでいっぱいいっぱい。15年、19年W杯のジャパンは、ラスト20分からが強い。それが勝つチーム、強いチームなんですよ」
ジャパンが後半に強くなったのには理由があります。前HCのエディー・ジョーンズさんは選手にハードワークを課すことで、当たり負けしない肉体、走り負けない体力を養成しました。栄養やメンタルの面で選手たちを支えるスタッフが充実しているのも、近年のジャパンの特長です。
さらに言えば、選手交代の妙も後半に強い一因になっています。ラグビーはかつて交代の許されないスポーツでしたが1968年、国際試合において選手が負傷した場合に限り交代が認められるようになりました。96年からは負傷理由以外の交代、いわゆる“戦術的交代”が可能になりました。現在はリザーブ8人全員の出場が認められ、1試合で最大23人がピッチに立つことができます。世界の列強と比べた場合、まだまだ体のサイズで劣るジャパンにとって、この戦術的交代がもたらすメリットは小さくありません。2年後のW杯フランス大会でも、「後半に強いジャパン」を見せてくれるはずです。
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