第101回全国高等学校ラグビーフットボール大会で、4大会ぶり6度目の花園制覇を達成した東海大学付属大阪仰星の湯浅大智監督は、同校での全ての優勝に関係しています。初優勝の第79回は選手として、第86回はコーチとして、そして4度(第93、95、97、101回)の優勝は監督としてです。今大会終了後に話を聞きました。
――4大会ぶり6度目の花園優勝おめでとうございます。
湯浅大智: ありがとうございます。日本一になるというチームの目標を生徒たちが達成したことの安堵感、喜びでいっぱいです。
――大会を振り返ってみて、日本一への手応えを掴んだ試合は?
湯浅: 33対0で勝利した3回戦の報徳学園(兵庫)戦ですね。報徳は秋に優勝候補の東福岡とタイトなゲームをしたという情報が入っていたので、私たちのチーム力を測る上で格好の相手でした。この試合に向け、部員全員で分析しました。実際、アタック力があるチームを0点に抑え、自分たちのゲームメイク、プランを実行できた。チームとして準備してきたことが結果につながり、“自分たちがやってきたことは間違ってない”と確信できたゲームだったと思いますね。
――今年度になってから新たに取り組んだ試みはありますか?
湯浅: 新たに取り組んだというよりも原点回帰ですね。我々がどういうラグビーを目指し、どういうことが必要なのかを理解してプレーする。それを細かく丁寧に指導していきました。仰星の基本を、練習を積み重ねることによって体で覚えていた選手もいたと思いますが、それを頭で理解して身に付けていく。そこを改めて深く探求しましたね。
――具体的に練習メニューを変えたのでしょうか?
湯浅: 2020年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で、練習時間がなかなか確保できませんでした。活動を再開してからは、コロナ以前は1週間1サイクルに設定していた生徒たちの理解、アウトプットの時間を2サイクルに変えました。月曜日がオフで、火曜日に座学でティーチング、水曜日にはグラウンドに出て練習をコーチングする。木曜日は選手たちがセルフコーチングを行う。アウトプットする機会を増やし、インプットをしたものを身体に落とし込ませる時間を設けました。
――木曜日のセルフコーチングとは?
湯浅: 水曜日にやった練習をもう一度行います。この時は私がほとんど口出ししません。もちろん意図が違ったり、選手が勘違いしているようなら“こういうふうにした方がいい”とアドバイスはしますが、コーチの指導に頼らない自立した選手になることが理想だと思っています。それが在学中の3年間で完結できるかどうかはわかりませんが、その基礎を持って次のステージにいけば、監督、コーチ、トレーナーとコミュニケーションが取れ、セルフケア、セルフコンディショニング、セルフコーチングができる選手になる。そのレベルまでいくと、言われたことをただ鵜呑みにはしません。20年度の後半にチャレンジしたことが、今年度は1年を通して実行できたと思います。
――仰星にはクラブ目標と、その目標を達成するための取り組みが10箇条あると伺いました。
湯浅: 本校はチャンピオンを目指すチーム、組織として社会に貢献する人材を輩出するというクラブ――。この2つを目的にしています。チーム目標は常に日本一。そのためのスローガンなどは私が決めます。一方のクラブ目標は、新3年生が立てる。そこに私は関与しません。自分たちで決めることによって、その目標に対する責任感が生まれますから。目標をきちんと言語化し、“見える化”をして常に意識させる。自分たちで組織をつくっていくという過程を経験してもらいたいんです。
――18年度からチームはキャプテン制ではなく複数リーダー制を敷いていますね。
湯浅: 早稲田大学主将の長田智希がキャプテン制の最後の代ですね。彼は人物的にも、学業的にも全てにおいてレベルが高かった。そういう人間がリーダーでもいいのですが、いろいろなものを背負い過ぎてしまった。先ほど申し上げたように本校はチームとクラブの両立を公言しています。その2つを引っ張っていくことを、1人の高校生に任せてしまうのは酷なことです。チームを日本一に導くためのチームリーダー、クラブをいいものにしていくことを目指すクラブリーダー、試合の分析などを研究するゲームリーダー。複数のリーダー同士が意見を言い合える関係を大事にしています。そうやって役割を分けることで1人のリーダーの負担を軽減し、チーム、クラブ全体が充実していくと考えています。
――21年度は「食事」「睡眠」「勉強」など、かなり細分化されていたそうですね。
湯浅: そうです。全員に役割を与えました。その場所の責任を感じることで、リーダーの大変さも実感できる。生徒たちが自身のソーシャルスキルを磨いていくきっかけにもなっていると思います。
――今後に向けての展望を教えてください。
湯浅: 足元を見据えて、基礎と基本を大事にする。そういう組織でありたい。チャンピオンになるチームというよりは、長く愛され、長く認知され、長く共感を得ることができるような組織であることが大切だと思っています。
――新年度は仰星初の連覇に挑戦するシーズンとなります。
湯浅: 指導者の立場で言うと、毎年メンバーが入れ替わる学生スポーツにおいての連覇は、非常に魅力を感じます。連覇にチャレンジできるのは1校しかない。それを選手たちも楽しんでほしい。“オレたちしかいないんだ、だからこそ一歩ずつやろうぜ”と。
――仰星という常に優勝を期待される強豪校で、監督を務めることのプレッシャーは?
湯浅: 私はたまたま監督というポジションで一緒に戦っているだけです。もちろん生徒たちを指導していく責任はありますが、全てを背負っているという感覚はありません。
――導くというよりは、一緒に戦って成長していくというスタンスでしょうか?
湯浅: 私は一生その立ち位置だと思います。監督やコーチという役割が、指導者というポジションであるということは認識しています。しかし、ともに成長していかないとチームは停滞する。私自身がそのポジションで何ができ、何をしなければならないのか。それはずっと考えています。
――教え子たちが次のステージ、ひいてはラグビー日本代表で活躍することに、やり甲斐を感じますか?
湯浅: もちろんそうなってくれたらうれしいですが、それよりも我々の姿を見て、“教員になりたい”と思う選手が出てきた時に喜びを感じますね。ラグビーに関して言えば、ヨーロッパや南半球のトップチームでヘッドコーチになる人材が生まれることが夢です。ラグビーの造詣が深くないとダメですし、語学が堪能で、人間的に優秀じゃないと認められませんからね。私は生徒たちに「強い、速い、巧いだけの選手と、一緒にプレーしていて面白い選手と、どっちがいい?」という話をよくします。強い、速い、巧いけど自分本位な選手より、“コイツと一緒に戦いたい”と思える選手を選ぶなら、自分はどういう選手を目指すべきか。ラグビーをするのは人です。私はラグビーで人が育つとは思っていません。ラグビーをするまでにどんな人間になるかが、部活動のラグビーでは大切だと思っています。
<湯浅大智(ゆあさ・だいち)プロフィール>
1981年9月8日、大阪府出身。中学1年でラグビーを始める。現役時代のポジションはフランカー。東海大仰星(現・東海大付属大阪仰星)で全国高等学校ラグビーフットボール大会(花園)に2度出場。3年時には主将として同校の初優勝に貢献した。東海大に進学し、卒業後は東海大仰星に赴任。ラグビー部のコーチを務めた。13年よりラグビー部監督に就任。15年度の三冠(選抜、7人制、花園)達成を含む4度の花園優勝に導いた。
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