ラグビーにおいて司令塔を意味する背番号10の持つ重みと響きは絶大です。オールブラックスの「10番」となれば、それはなおさらです。古くはグラント・フォックスさん、アンドリュー・マーティンズさん、最近ではダン・カーターさんらの名前が思い浮かびます。現在はボーデン・バレット選手と、リッチー・モウンガ選手がその座を争っています。
今月12日、オーストラリア・ゴールドコーストで行われた南半球4カ国対抗戦「ザ・ラグビーチャンピオンシップ」(TRC)の対アルゼンチン代表戦は、オールブラックスのバレット選手が「10」を背負って出場し、期待に違わぬ活躍を見せました。
まず前半10分、バレット選手は敵陣深くでボールを持つと、強引な突破でスペースをこじ開けます。味方へのパスは相手に弾かれ、ルーズボールになりましたが、センターのリーコ・イオアネ選手のフォローにより、先制トライをあげました。バレット選手は、コンバージョンキックも決め、7対0。34分にはペナルティーゴール(PG)を入れ、10対0とリードを広げます。前半は22対0。ボール支配率も7割を超えるなどアルゼンチンを圧倒しました。
圧巻は後半6分のプレーです。敵陣左中間でボールを持つと、ディフェンスラインのギャップを突きます。さらに加速すると右斜めにランし、1人、2人と追っ手をかわします。3人目には捕まりましたが、右手でナンバーエイトのルーク・ジェイコブソン選手にバックフリップパス。芸術的なトライを演出しました。
このプレーに対し、WOWOWで解説を務めた元ジャパンの真壁伸弥さんは「いやぁ、いいものを見た」と感嘆の声を上げました。同じく元ジャパンで、現在慶應義塾大学監督の栗原徹さんは「アルゼンチンの選手も来るのは分かってカバーしていたんですが、際(きわ)をうまく射抜きましたね」と舌を巻いていました。
大活躍のバレット選手は後半10分にダミアン・マッケンジー選手と交代し、お役御免となりました。試合はその後、オールブラックスが1トライ1ゴール、1PGを加え、アルゼンチンに反撃を許さず、39対0で完封勝ちしました。
このバレット選手と「10」の座を争うのがモウンガ選手です。正確無比なプレースキックによる得点力の高さが売り物です。またバレット選手同様、パスだけでなく突破力にも優れています。このクライストチャーチ出身の27歳は強豪クルセイダーズの司令塔としてスーパーラグビー3連覇に貢献しました。オールブラックスでも19年W杯日本大会は5試合で「10」を付け、大会3位の54得点をあげました。彼が「10」を付けた5試合、バレット選手はフルバックでプレーしました。
バレット選手は15年W杯イングランド大会終了後、カーターさんの後を受け、オールブラックスの「10」を背負いましたが、19年からの2シーズンでは主に「15」を付けてプレーしていました。それでも本人は「自分が一番プレーしたいポジションは“10”」と明言しています。昨季、トップリーグ(TL)のサントリーに移籍した際にも「10」へのこだわりを語り、スタンドオフでプレーしました。
キック、パス、ランを高い水準で兼ね備えるバレット選手は、TLで世界最高水準の実力を遺憾なく発揮しました。プレーオフ決勝で敗れ、優勝は逃したものの、得点王に輝きました。
今年のTRCでは、「10」を争うモウンガ選手がパートナーの出産に立ち会うため、前節のオーストラリア代表戦から欠場。バレット選手が2試合連続で「10」に起用され、アピールの機会を得ています。アルゼンチン戦での活躍は、代表での「10」奪還を後押しするものになったはずです。2年後のW杯フランス大会に向け、ラグビー王国の「10」を巡る争いは、さらに激しくなりそうです。
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