第9回全国女子ラグビーフットボール選手権大会決勝(小田原市城山陸上競技場)は、東京山九フェニックスクラブが日本体育大学ラグビー部女子を27対24で破り、初優勝を果たしました。太陽生命ウィメンズセブンズシリーズと合わせて今季2冠を達成したフェニックスのキャプテン鈴木実沙紀選手に強さの秘密を聞きました。
――2月5日に行われた日体大との決勝は、前半27分に先制トライを許すと、35分にもトライを奪われ、一時は0対12に。焦りはありませんでしたか?
鈴木実沙紀: 100%落ち着いていたわけではありません。しかし、私たちのディフェンスが完全に崩されたわけではなかった。1本目のトライはキックチャージから、2本目のトライはうまいキックパスを通されて奪われたもの。私たちとしては小さなミスをきっかけに失点をしたわけですが、組織としてはしっかり守れていたので慌ててはいませんでした。ただ正直、“次を取られたらマズイな”という思いはありましたね。
――試合中、円陣を組んでチームメイトたちに「大丈夫」と声をかけていたそうですね。
鈴木: 日体大との決勝はタイトなゲームとなると想定していました。気にするミスではないというか、起こり得るミスでしたが、直接失点に関わった選手は、どうしても気落ちしがちなので「大丈夫。最後に勝ち切ろう」と声をかけました。残り時間も自信を持って戦って欲しかったから。
――前半ロスタイムにフッカー柏木那月選手のトライ、フルバック大黒田裕芽選手のコンバージョンキックで7点を返しました。
鈴木: あのトライは50:22ルール(自陣からキックしたボールが敵陣の22mラインを越えてワンバウンド以上してから外に出た場合、マイボールラインアウトを獲得できる)で得たチャンスがきっかけとなりました。ラインアウトからのアタックもフォワードが体を張って前進し、5点差で試合を折り返すことができました。緊張感のある中、みんながそれぞれやるべきことにフォーカスできていたと思います。
――ハーフタイムではどんな指示を?
鈴木: ハーフタイム中、ケン・ドブソンコーチから「相手の得点パターンは自分たちのミスから。そこを潰していけばいい」と言われました。ピッチにいる私たちと同じ見方をしていたので、安心しました。ベンチにいる選手たちもポジティブな言葉をかけてくれた。おかげでハーフタイムを終え、「最後に勝ち切ろう」とチームがひとつになれた。それが後半の入りにもつながったんだと思います。
――後半開始早々にウイング鹿尾みなみ選手のトライで追い付きました。その後、点を取り合いましたが、27分にトライを決められ、7点差に。
鈴木: ラグビーは80分間のスポーツです。最後の笛が鳴るまでわからないから、まずは目の前のことをしっかりやっていこう、と。私たちは敵陣にさえ入れば、ディフェンスには自信がありましたし、最後の最後で点を取り切るための練習を積んできていました。
――残り10分以上あるとはいえ、追いかける展開で試合終盤を迎えました。体力的にもキツイ時間帯です。
鈴木: おっしゃる通りです。普段しないような反則をしたり、敵陣に入るのも苦しい時間帯で、正直焦りもありました。ただ、後半途中から入ってきた選手たちがプレーで“まだいけるぞ”というインパクトをチームに与えてくれた。“流れを持ってきてくれてありがとう”という気持ちで、私たちスタメンで出ていた選手たちも、もう一度、闘争心に火がつきました。
――逆転トライをあげたウイングのニア・トリバー選手がボールを持って左サイドを駆け抜けている時点で、後半40分を過ぎていました。
鈴木: タッチラインを割ったら試合が終わるというところで、タッチラインギリギリの位置から、さらに外にステップを切ったニアは本当に気持ちの強い選手です。彼女がトライを取った後、感謝の言葉を伝えましたが、返事ができるような状態ではなかった。それほど疲れきっていました。
――タッチラインの内側ギリギリに足を残してのトライでした。
鈴木: トライした瞬間、私は何が起きているか理解できませんでした。「ボールを置いた?」「どういうこと?」。逆転した喜びよりも、頭が真っ白になっていたんです。
――味方がコンバージョンキックを蹴るまでの気持ちは?
鈴木: もしかしたら、残り1プレーくらいはあるかもしれなかったので、チームメイトに「もう1回、(気持ちを)セットしよう」と声をかけました。次のキックオフに備えながら、キックが外れた後に試合終了のホイッスルを聞き、“勝てたんだ”と安堵の気持ちが溢れてきました。
――チームのSNSなどを拝見しても、雰囲気の良さを感じます。
鈴木: ありがとうございます。いい意味で年齢による上下関係があまりないと思います。フィールドに立てば、年齢差は関係ありません。チーム最年長の私が焦っていれば、周りは「大丈夫だよ」と声をかけてくれますし、練習中も「こうしましょう」と意見をくれる。私はチームというより、家族のような関係だと感じています。
――チームには外国出身の選手もいます。
鈴木: 元々、フェニックスは個性派揃いのチーム。ただ、その個性がマイナス面でぶつかることがないんです。掛け算のように高め合ってきた。もちろん言葉の壁は多少ありましたが、個性派揃いのチームに個性のある人が新たに加わったというだけ。ひとつの個性としてみんなが受け入れ、ラグビーを楽しむ仲間としてチームにいい影響を与え合っている。私はポジティブな面しか感じないですね。
――キャプテンとして気をつけていることはありますか?
鈴木: 私は最初から最後までチームを引っ張っていくようなキャプテンではありません。最後にみんなの向く方向を合わせるのが役目だと思っています。たとえば試合中やチームがキツイ時、向く方向がバラバラになりそうな時に「こっちだよ」と案内できるキャプテンでいたい。私自身、頼れるところはみんなに頼る。みんな個性的で明るく、1人1人が自分を持っている。私としては型にはめるよりは自由にやらせた方がいいと感じています。良い時は自由にやらせ、悪くなった時は手助けをする。それが今のチームのかたちかなと思っています。
――来シーズンに向けての抱負を。
鈴木: チームとして初の2冠を達成しましたが、今季は勝つ以上に大事なことを得たシーズンでした。普通、試合に出る選手と出られない選手では、そこに熱量の差が生まれがちですが、チームが家族のような関係でやってきた。試合に出られない選手が、勝って喜んでいる姿を見て、一体感がより強くなっているという自信があります。今後は勝ち続けていく難しさに挑戦していくことになりますが、フェニックスはその難しさを背負えるチームだと思っています。もっとみんなでレベルアップをし、フェニックスが女子ラグビー、女子スポーツをアピールできたらいいな、と思っています。
(おわり)
<鈴木実沙紀(すずき・みさき)プロフィール>
1992年4月9日、神奈川県出身。中学1年からラグビーを本格的に始める。ポジションは主にフランカー、フッカー。市立船橋高校、関東学院大学と女子部のないチームで所属。2013年、大学在学中、東京フェニックス(現・東京山九フェニックス)に加入した。今季はキャプテンとしてチームを牽引し、2冠達成に貢献した。W杯はセブンズで13年モスクワ大会、15人制で17年アイルランド大会、21年ニュージーランド大会(コロナ感染拡大の影響で開催は22年)に出場した。代表通算キャップは31。身長163センチ。
データが取得できませんでした
以下よりダウンロードください。
ご視聴いただくには、「J:COMパーソナルID」または「J:COM ID」にてJ:COMオンデマンドアプリにログインしていただく必要がございます。
※よりかんたんに登録・ご利用いただける「J:COMパーソナルID」でのログインをおすすめしております。