ジャパンで通算4キャップを持ち、フランスのプロリーグ「トップ14」でもプレーした日野剛志選手は自らのプレー映像を当時ヤマハ発動機ジュビロ監督・清宮克幸さん(現・日本ラグビー協会副会長)に送り、トライアウトによって入団したという変わり種です。その日野選手に有効なプレゼンの仕方、人との出会いの大切さについて聞きました。
――新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、高校、大学の大会も軒並み中止となりました。SNSでは「ラグビーを止めるな2020」というハッシュタグを付け、選手のプレー動画をアップし、学生が各チームにアピールするためのプロジェクトが話題となっています。
日野:僕は同志社大時代、とにかく自信がなかった。3年時はレギュラーでなく“僕なんかがTLで戦えるのか”と思っていました。今もそういう選手はいっぱいいるはずです。ラグビーが好きで、続けたい気持ちがあるなら、どんどんチャレンジしてほしいですね。
――トライアウトを経て、ヤマハに入団しました。その経緯は?
日野:就職活動を行っている頃、“ラグビーも続けられたらいいなぁ”と考えていました。そこで大学のOB中村直人さんに相談すると「オマエなら、まだまだできる。やるなら下部リーグではなくトップリーグを目指せ」と背中を押してもらいました。中村さんはサントリーサンゴリアス時代、当時ヤマハの監督だった清宮さんや長谷川慎さんと一緒にプレーしていました。そこで自分のビデオを作成し、中村さんを通じ、清宮さんに観てもらったのがきっかけです。
――どんなビデオを作成したのですか?
日野:自分のプレー集です。作りながら自分のプレーを客観的に観ることができて良かったと思います。自分の好プレーばかり切り取ると、当たり前ですが、すごく良い映像集が出来上がるんです。“こんなプレーができるんだ”と自信がつく。僕は試合や練習試合でのプレーを3分間にまとめましたが、その映像を見ると自分がすごい選手だと錯覚しましたね、アハハハ。
――ビデオが効果を発揮して念願のトライアウトにたどりついたわけですね。
日野:はい。4月に磐田での練習に参加させてもらいました。僕と同じ日には7、8人の学生がトライアウトを受けました。実は当日、ラッキーなことがあったんです。
――宝くじにでも当たりました(笑)?
日野:いや、トライアウトで50メートル走のタイムを計測したんです。中村さんが清宮さんや慎さんに「足の速いフッカーを送るから、見てくれ」と僕を推薦してくれました。ところがトライアウト当日、タイムを計る機械の調子が悪く、手動で計測することになったんです。現監督で当時バックスコーチの堀川隆延さんがストップウォッチで計測すると、僕のタイムは6秒2でした。それが今も人生のベストタイムです。そんな幸運も手伝って運良くアピールに成功したんです。
――手動の方が機械よりも速いんですね?
日野:そうだと思います。ただ、それでも受かるとは思っていなかったので、連絡がくるまでは就職活動を続けていました。だからヤマハさんからお電話をいただいた時は、泣いて喜びましたね。
――入団した時の監督、清宮さんはどういう指導者でしたか?
日野:全部先が見えているような監督でした。清宮さんが「日本一になれる」と言ったら、本当になれそうな気がしてくるんです。指導を受けていても、“こうなればこうなる”ということを示してくれる。最初は半信半疑でしたが、だいたいがその通りになる。口にしたことをどんどん実現していく人なんだなと思いました。会う前はクールなイメージでしたが、とても熱い人でした。繋がり、情、仁義……。人間っぽいところがたくさんあり、“だからみんながついていくんだろうな”と納得しましたね。
――長谷川コーチは昨年のW杯日本大会で、スクラムコーチとしてジャパン躍進の立役者となりました。清宮さんは「スクラムの動きを言葉で伝えることのできる唯一の男」と評していました。
日野:まったくその通りだと思います。慎さんは精神論でラグビーを語らない。「いいから押せよ!」という指導法ではなく、押せない理由を明確に示してくれる。スクラムで押すためのやり方を示し、それを言葉にできる指導者です。もちろんスクラムの理論は確固たるものがある。慎さんに教えてもらうことで、自分もスクラムの動きを言語化できるようになりました。ヤマハのスクラムをつくったのは慎さん。本当にすごい人だと思いますね。
――FW8人16本の足、80本の指の位置はもちろん、ひざ、足首の角度、地面に刺さるスパイクの歯の数にまでこだわると聞きました。
日野:ヒザの高さなどはセンチ単位で修正されます。あとはチェック項目が多い。スクラムを組むまでのルーティンは、他のチームの倍以上もあるのではないかと思います。それらをきちんと言語化することで、チームとしても共通理解ができる。それがヤマハの強みだと思いますね。あとは清宮さんと似て、情に厚い。面倒見もよく、グラウンド外のところでもサポートしてくれる。清宮さん同様、“この人のために”という気持ちにさせてくれます。
――今年のTLは残念ながら6試合で中止となりました。今後に向けての目標は?
日野:ヤマハは2014年度の日本選手権優勝以降、リーグで上位には入るものの、タイトルからは遠ざかっています。もう一度、優勝したい。チームの中でも優勝を知らない子が増えてきました。その喜びを自分も味わいたいし、チームメイトやファンにも味わってもらいたい。まだ来季TL、新リーグがどうなるかはわかりませんが、チームのために自分ができることをコツコツと準備していきたいと思っています。
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