さる1月15日、日本ラグビー協会は「ラグビー日本代表強化プランに関するメディアブリーフィング」を都内で開きました。登壇したジャパンのエディー・ジョーンズ新ヘッドコーチ(HC)による“講義”は、予定時間(50分)を超えても、まだ続きました。
エディーHCの語りには、いつも発見があります。今回はビジョンスキルについて力説していました。
「人間がなぜ動物界でトップに立っているのかというと目が違うから。例えばゴリラ同士はお互い何を考えているかわからない。それは白目がなく、目による感情表現ができないからです。(ラグビーにおいて)いい選手はいい決断をしている。それは目を通して動きを見て、決断することができているからです。そのスキルを上げていかないといけないと思っています。強化するために、いくつかアイディアがあります。AIを使ったトレーニングを導入する必要があるかもしれない。それを加速して学んでいかなければいけません。下を向いている選手があまりにも多過ぎる。目でコミュニケーションを取れるようにしなければならないと思っています」
ゴリラには白目がなく、目による感情表現ができない、とは初耳です。そこでインターネットでゴリラの画像を見てみると、あれれ、白目の部分がはっきりと確認できました。
もっともゴリラといっても、アフリカには4種類(マウンテンゴリラ、グラウアーゴリラ、クロスリバーゴリラ、ニシローランドゴリラ)が生息しているそうです。
この4種類の中には、「白目がない」ゴリラもいるのでしょうか。もう一度調べてみたところ、マウンテンゴリラは確かに黒目がちです。エディーHCは、この種のことを言っているのかもしれません。
蛇足ですが、白目を持つ動物は人間だけではありません。身近なところでは犬がそうです。
霊長類研究の第一人者である山極壽一さんが、こんなことを話しています。
<犬は人間の白目を見て気持ちを察する能力を発達させたんじゃなくて、自分の白目を人間に見てもらいたくて、家畜として発達したんじゃないかと僕は思うんです>(ログミーBiz2021年05月30日配信)
話をラグビーに戻しましょう。エディーHCが言いたかったのは、ゴリラどうのこうのではなく、アイコンタクトの重要性です。日本には「目は口ほどにものを言う」ということわざがありますが、この部分のスキルを磨き、武器にしたいと考えているのです。
もっともビジョントレーニングに関する研究は、今に始まったことではありません。
スポーツと視機能の関係を調査する研究機関がアメリカン・オプトメトリック・アソシエーション(AOA)にスポーツ・ビジョン・セクションとして誕生し、研究を開始したのは今から46年前(1978年)のことです。その6年後にナショナル・アカデミー・オブ・スポーツ・ビジョンなるもうひとつの組織が結成されました。
AOAは1980年から数年にわたり400人のプロ野球選手を対象としたスポーツビジョン検査を実施し、「大リーガーの運動視機能は(マイナーリーグの選手より)視力、深視力、目と手の協調性において優れている」「経歴の長い選手でも優秀な視機能を有する者は競技でもよい成績を維持することができる」などの報告を行いました。
日本に目を転じると88年1月、スポーツビジョン研究会(現・日本スポーツビジョン協会)が発足し、これまでバスケットボール、バレーボール、野球、サッカー、テニス、アメリカンフットボール、ラグビー、ボクシングなど、あらゆる競技を対象に調査、研究を行ってきました。
手元に『スポーツは眼だ!』(スポーツビジョン研究会)という小冊子があります。その一部を引用します。
<車の運転のメカニズムを見てみましょう。まず、ドライバーには外部の情報が眼と耳から入ります。次に脳はそれらを分析・判断して、アクセル、ハンドル、ブレーキなどを動かす指令を筋肉に送ります。手足の筋肉はその指令に基づいて的確に反応して動きます。
まず、眼や耳からの知覚(入力)があって、運動(出力)があるわけです。この入力と出力の関係はスポーツも同じです>
スポーツ・ビジョンの検査項目は、視力、眼球運動、焦点調節能力、輻輳調節能力、視線の並び、深視力、光感度、視覚反応時間、眼-手の協調性、高さ見積もりなど多岐にわたります。
しかしエディーHCは、これらひとつひとつの視機能を改善するのではなく、全体のレベルアップを図りたいと考えているようです。ひらたく言えば、視覚によるイマジネーションの喚起、開発です。
単に目がいいとか悪いとか、動いているものが見えるとか見えないとか、ではなく、目で感情や情報、指示を瞬時に伝える――。これをエディーHCは目指しているのです。
以上はエディーHCが掲げる「超速ラグビー」にも合致します。新しい実験にチャレンジする第2次エディー・ジャパンから“目”が離せません。
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