7月22日、札幌ドームで行われた今年最初のテストマッチは、残念な結果に終わりました。22対24。ジャパンはW杯フランス大会で同組(プールD)のサモアを相手に、前半30分、ナンバーエイトのリーチ・マイケル選手を退場で描き、以降、14人で戦う羽目に。まるでフランスに向けたストレステストのような試合になってしまいました。
リーチ選手の一発退場は、タックルにいった際、肩が相手選手の側頭部付近に当たったことによるものです。近年、選手の安全性を担保するため、国際統括団体ワールドラグビー(WR)はハイタックルの厳格化を進めています。頭部への打撃はカードの対象。今年3月には、各協会に対し、「胸骨の位置へのタックルはハイタックルとする」という試験的ルールの導入を推奨しました。
冒頭でストレステストと書きましたが、こうしたことは本番でも起こる可能性があります。それを“W杯前哨戦”で経験したことは、むしろよかったのではないか、と前向きに考えましょう。
話は変わりますが、1990年代、無双の強さを誇った勇利アルバチャコフ(本名ユーリ・ヤコヴレヴィチ・アルバチャコフ)というロシア人ボクサーがいました。WBC世界フライ級王者として9度の防衛に成功しています。
ある日、取材で新宿のジムに行った時のことです。ジミン・アレクサンドルというロシア人トレーナーの指示で、なんとダウンの練習をしているのです。
誤解なきよう言いますが、ダウンを取る練習ではありません。自らがキャンバスに倒れる練習です。無敵の勇利に、なぜこんな練習を課す必要があるのか? そう訊ねるとジミントレーナーは、顔色ひとつ変えずにこう答えました。
「ボクシングは何が起こるかわからない。ユーリといえども、何かの拍子でバランスを崩し、たまたまそこにパンチが当たって倒れることがないとは言えない。その前に倒れる練習をしていれば、足をくじいたり、キャンバスのひんやりした感触で、びっくりして心を乱すこともない。そのための準備を今、しているんだよ」
これぞ、転ばぬ先の杖、勇利の完全無欠とも言える強さの一端に触れた気がしました。
さて、問題はサモアです。15年イングランド大会の代表メンバーである真壁伸弥さんは、7月22日の試合前、ライブビューイングで、サモアについて、次のような感想を口にしました。
「現役当時、サモアとやるのは非常に怖かった。最近はサモアの事情もあって、なかなかチーム力をつけられてない。日本は15年、19年には大勝しています。ただルールが変わったので、またいい選手が集まってくるようになってきた。自国に対しての忠誠心みたいなものが高まってきているので、怖い存在になりつつありますね」
真壁さんの言う「ルールの変更」とは、WRが定める代表資格のことです。一昨年までは1回でも代表戦(テストマッチ)に出場した場合、その選手はそれ以降、他国の代表として代表戦に出場することはできませんでした。それが昨年1月から規定が緩和されたことにより、最後の代表戦出場から36カ月以上が経過した選手については、本人または両親か祖父母の生まれた国であれば代表資格が変更可能となったのです。
これにより、今回のチームにはスタンドオフのクリスチャン・リアリーファノ選手(元-ストラリア代表)、プロップのチャーリー・ファウムイナ選手(元ニュージーランド代表)が名を連ねました。
日本にとって特に厄介な存在になりそうなのがリアリーファノ選手です。彼はトヨタ自動織機シャトルズ(現・豊田自動織機シャトルズ愛知)、NTTコミュニケーションズシャイニングアークス(現・浦安D-Rocks)でプレーした経験を持ちます。
ジャパン最多の代表キャップを誇る大野均さんは「日本のラグビーをよく知っている彼が、フィジカルの強いサモアの巨漢たちをどういうふうにコントロールするのか。彼は相手に隙があればどこでも仕掛けてくる選手」と警戒感を高める必要性を口にしました。
22日の試合で、リアリーファノ選手はフル出場を果たし、冷静なゲームコントロールでジャパンを苦しめました。また正確なキックで4本のプレースキック(ゴールキック3、PG1)全てを成功させ、逆転勝利に貢献しました。
今回来日したメンバー以外にもサモアには元ニュージーランド代表組がおり、ジャパンにとっては、まさしく侮れない相手です。反則により数的不利を余儀なくされながら、ほぼ互角のゲームを演じたことを、むしろ自信にすべきかもしれません。結果的には、本番前のいいスパーリングとなりました。
データが取得できませんでした
以下よりダウンロードください。
ご視聴いただくには、「J:COMパーソナルID」または「J:COM ID」にてJ:COMオンデマンドアプリにログインしていただく必要がございます。
※よりかんたんに登録・ご利用いただける「J:COMパーソナルID」でのログインをおすすめしております。