東京パラリンピックで車いすラグビー日本代表は、リオデジャネイロ大会に続き2大会連続でメダルを獲得しました。金メダルは準決勝で日本を破った英国、銀メダルは米国。日本は2018年の世界選手権を制し金メダルを期待されましたが、終わってみれば前回と同じ銅メダルでした。
パラリンピック3連覇を目指すオーストラリアを57対53で破るなど、グループリーグ3連勝と勢いに乗った日本でしたが、準決勝で英国に49対55で敗れ、金メダルの夢が潰えました。しかし、傷心を引きずらず3位決定戦ではオーストラリアと再戦し、60対52で返り討ちにしました。
5年前も主力として銅メダル獲得に貢献したキャプテンの池透暢選手は、こう胸を張りました。
「リオの時と、今のチームが戦ったら10点以上の差が開くくらい今の方が強い。それは間違いない。今はどのラインアップでも同じクオリティを出せる。この5年間で積み上げてきたことは誇れるものです」
選手層の厚みが出た、と口にする池選手ですが、それは17年2月に就任したケビン・オアー監督の手腕に依るものです。リオ大会、世界選手権で日本代表のアシスタントコーチを務めた三阪洋行さんは以前、こう語っていました。
「ケビン監督は指導者として20年以上のキャリアがあり、アメリカやカナダなど強豪国を指揮してメダルへと導いてきた人物です。彼の指導により、車いすラグビーをより深く理解できたし、戦術も日本人の特性を生かしたものにしてくれました」
――ケビン監督が生かそうとした日本人の特性とは?
「スピードや器用さですね。ほかにも、試合でコートに立つのは4人ですが、4人だけでは体力的にも戦い切れないので、“ベンチ入りする12人全員でひとつの試合を戦う”というコンセプトを徹底しさせた。これはリオから比べて大きな変化でした」
車いすラグビーは1チーム最大12人で編成され、コートには4人しか出られません。試合は1ピリオド8分の4ピリオド制。選手交代はバスケットボールなどと同じで制限がありません。コートはバスケットボールと同じ広さです。車いす競技では唯一タックルが認められているため、身体への負担は小さくありません。すなわち、監督はプレータイムを計算しながら、効果的に起用しなければならないのです。
さらに車いすラグビーのメンバー編成には、パラスポーツならではの規定があります。各選手に障がいの度合いに応じた持ち点が与えられ、障がいの重い0.5点の選手から軽い3.5点の選手まで0.5点刻みの7段階に分けられています。試合に出場する4選手の合計は8点以下でなければなりません。そのため障がいの重いローポインターと軽いハイポインターをどう組み合わせるかが勝負のカギとなります。
池選手(3.0点)や池崎大輔選手(3.0点)のようにボールを前線に運び、トライを量産するのがハイポインターの主な役割です。一方、ローポインターは相手の動きを読み、タックルで進路をブロックするなど、黒衣役となってチームを支えます。
オーストラリアとの3位決定戦ではローポインターたちの活躍が光りました。まずはチーム唯一の女性選手である倉橋香衣選手(0.5点)。第3ピリオド終了間際、オーストラリア代表のエース、ライリー・バット選手(3.5点)を弾き飛ばし、味方のトライを演出しました。
続いては長谷川勇基選手(0.5点)。第4ピリオド、4分半が過ぎたところで強引に突破を図るバット選手を、島川慎二選手(3.0点)とのダブルタックルで阻みました。この後、日本は池選手と池崎選手を中心に得点を重ね、オーストラリアを突き放します。ハイポインター、ローポインターのコンビネーションが機能し、日本が60対52で快勝しました。
試合後、ケビン監督は「6人のローポインターがチームに貢献してくれた」と倉橋選手や長谷川選手たちを称えました。
メンバーそれぞれに居場所と役割があり、出番がやってくる。19年W杯日本大会で初のベスト8入りを果たした15人制ラグビー日本代表(ジャパン)が掲げた「ワンチーム」のような一体感が、今回の車いすラグビー日本代表にもありました。加えて女性選手の活躍は「共生社会」の未来像といっていいものでした。
ともあれ、車いすラグビー日本代表にとって、悲願の金メダル獲得はパリ大会へと持ち越しとなりました。「パラの舞台でやられたらパラの舞台で返す」とは池崎選手。当面の目標は来年10月、世界選手権デンマーク大会での連覇です。
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