トップリーグ(TL)のプレーオフトーナメントが17日からスタートしました。2部リーグにあたるトップチャレンジリーグ(TCL)勢はリーグ戦上位4チームが参戦。トーナメント1回戦を突破したのは2位の近鉄ライナーズのみでした。近鉄は25日、ベスト8進出をかけてパナソニックワイルドナイツとの2回戦に臨みます。
TCL勢で唯一の“下克上”を果たした近鉄の試合を振り返りましょう。18日に東京・秩父宮ラグビー場で、宗像サニックスブルースと対戦しました。前半11分に先制を許したものの、3トライを奪って逆転に成功。17対14と3点リードで後半を迎えました。
近鉄は開始早々に危地に追い込まれます。4分、ナンバーエイトのロロ・ファカオシレア選手が危険なプレーで一発退場。残り時間を14人で戦わざるを得なくなったのです。
だがピンチにも、近鉄の選手たちは冷静でした。ゲームキャプテンを務めたロックのマイケル・ストーバーク選手は「14人になったからこそ、もう1人分の仕事を残りの14人でカバーしていくという気持ちで引き続き戦った」と語っていました。
12分には敵陣で粘り強く攻め、最後はストーバーク選手が長いリーチを生かし、インゴールにボールをねじ込みました。途中出場のフルバック、セミシ・マシレワ選手のコンバージョンキックも成功し、数的不利をものともせず24対14とリードを広げました。
FW1人が抜けたことにより、7人で組むことになったスクラムは当然のごとく苦戦を強いられます。それでもインプレー中は数的不利をほとんど感じさせませんでした。スクラムハーフでフル出場したウィル・ゲニア選手が、その理由を明かしました。
「このようなシチュエーションは、ウチのコーチ陣が練習時に“こういう対策をしていきましょう”と、ちゃんと準備をしていました。例えばバックロー(フランカー、ナンバーエイト)が1人抜けた時にどうやって14人で試合をするのか、スタンドオフが抜けた時にはどう対応するのか。シンビン(10分間の一時退場)などに対する準備もやっていました。だから今日も焦らずにできたんだと思います」
備えあれば憂いなし――。その後、サニックスにトライとゴールを決められ、3点差まで詰め寄られますが、ここでも近鉄の選手たちは冷静でした。
33分、ゲニア選手が敵陣に入ったところでボールを持つと、前方の空いたスペースに蹴り込みました。相手選手の前でバウンドしたボールは近鉄側へ。ウイングのジョシュア・ノーラ選手が猛然と追いかけ、相手にプレッシャーをかけます。処理に手間取っている間にボールを掴んだのはウイングの片岡涼亮選手でした。そのまま抜け出し、インゴール左中間に飛び込みました。マシレワ選手のコンバージョンキックも決まり、31対21とリードは10点差に。残り時間は粘り強い守備で相手に得点を許さず、リードを守り切りました。
価値ある追加点を演出したゲニア選手はオーストラリア代表110キャップを誇る熟達のゲームメイカーです。彼の判断はこうでした。
「スペースを空いていることを確認し、そこに蹴り込めばチャンスになるのではないかと。結果、トライにはなりましたが、やはりそこに反応してくれた片岡選手のおかげ。彼はキックチェイサーとして、ものすごく能力の高いウイング。ウチのクラブには“キックが乱れたとしても、キックチェイスが良ければ、それもいいキックになる”との考え方があるんです」
今季の近鉄は就任3季目の有水剛志ヘッドコーチ(HC)の下、スクラムとキックに力を入れてきました。その一環として太田春樹スクラムコーチ、オーエン・トゥーランキッキングコーチ(ヘッドアナリストと兼任)をチームに招きました。後半33分のトライは、まさにチームの方針が実ったものでした。
ラグビーにとどまらず強いチームは最悪の状況を想定した練習に余念がありません。試合が始まって「これは想定外」と慌てたところで、もう遅いのです。14人なってからも少しも慌てず、むしろリードを広げた“準備力”に、このチームの底力を見る思いがしました。
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