去る1月13日、東京・国立競技場で行われた第60回全国大学ラグビー選手権決勝は、帝京大学が明治大学を34対15で破り、3年連続12度目の大学日本一に輝きました。創部100周年を日本一で飾りたかった明大ですが、後半に息切れしてしまいました。王者・帝京大には不測の事態にも動じない強さがありました。
レフリーが試合を止めたのは前半21分です。7対0で帝京大がリードしている場面でした。
降り出した雨は、やがてみぞれから雪にかわり、雷鳴が響き渡りました。すぐに再開されましたが、23分、再び雷鳴が響くと、レフリーは笛を吹き、選手たちに退避を命じました。
落雷は人命に関わります。レフリーが試合を止めたのは適切な判断だったと思われます。
雷による被災は国内外で相次いでいます。2020年夏、CNNはロシア・モスクワ郊外のサッカー場で行われた3部リーグの試合で、16歳のゴールキーパーがボールを蹴ろうとした瞬間、雷に打たれ、その場に崩れ落ちるという衝撃の映像を流しました。救急車がすぐに到着したからよかったものの、あと数分救助が遅れていたら、助からなかったかもしれない、と言われています。
このように予見不可能なのが落雷です。ゴロッと雷鳴が響いたり、稲光が見えた時点で試合を止めるのが、雷対策の要諦だと言われています。
話をラグビーに戻します。「雪は想定していたけど、雷までは考えていなかった。初めての経験で、どうすればいいのか全然わからなかった」とは帝京大のフッカー江良颯主将。過去、トップリーグやリーグワンで雷による中断・中止の例はありましたが、大学選手権ではあまり聞いたことがありません。江良主将が「どうすればいいのか全然わからなかった」と語ったのも無理はありません。
ここは経験者の出番です。トップリーグで14シーズンプレーした相馬朋和監督のアドバイスが効果的だったようです。本人の話。
「私は雷でキックオフが遅れた経験があり、雷の位置によってどういう判断がされるか、試合再開前にウォーミングアップの時間を取れるということもわかっていました。また、その判断が二転三転することも。選手たちには“今はこうなっているけれど、こうやって変わるから、そのつもりで準備しよう”と伝えました。気持ちを切ってしまうことが一番不安でした。選手のメンタル面は(顧問の)岩出(雅之)先生にお任せししました」
では岩出顧問は、選手たちにどう語りかけたのでしょう。江良主将のコメントです。
「岩出先生からは“時間が延びたことを自分たちのものにしよう。本当は80分で終わるところ、試合時間が延びたのはうれしいことや”と言っていいただきました。そのおかげで、仲間たちとラグビーすることを噛みしめながらプレーできたのだと思います」
中断は1時間弱に及びました。前半を14対12で終えた帝京大は、後半に入り、反則が目立っていたスクラムを修正するなど、リカバリーの巧さを存分に発揮しました。後半2つトライを追加し、34対15で勝利しました。
不測の事態への対応といえば、準決勝の天理大学戦でも垣間見ることができました。22対12の後半19分、フランカーの青木恵斗選手がインゴール中央左に飛び込み、大勢が決まりかけたかと思われたのですが、タッチライン際を駆け上がったウイングの高本とむ選手の足がタッチラインを踏んでいるとアシスタントレフリーが判定し、ノートライとなりました。
このシーンは会場の大型スクリーンに映し出されましたが、高本選手の足はラインを踏んではいませんでした。文句のひとつも言いたいところですが、そこは紳士のスポーツです。江良主将は「常にレフリーに対し、リスペクトを持ってゲームを運んでいくことが選手としてやるべきことなので、その点についてフラストレーションはたまりませんでした」と語りました。
そんな選手たちの振る舞いを目にして、相馬監督は「判定が明らかに間違っていることをオーロラビジョンで見てしまうと、心がザワつくものです。そこでキャプテンはじめ学生たちがそんな素振りを少しも見せずにゲームに集中している姿を見て、本当に誇らしかった」と感心しきりでした。このような不動心は、どうすれば身に付くのでしょう。かつては新興勢力と見なされた帝京大ですが、頃日の彼らの立ち居振る舞いには、王者の風格が漂っています。
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