前シーズン9位(トップリーグ。以下TL)のチームをTL、日本選手権の2冠に導いたのですから、その手腕に注目が集まりました。サントリーサンゴリアス沢木敬介監督の2016年度の戦いを振り返りましょう。
「明日も練習です」
TLに続き、ラグビーの日本選手権を4年ぶりに制したサントリー沢木監督は、ぶっきらぼうにこう答えました。すぐさま「冗談です」と笑いを誘いましたが、肝を冷やした選手もいたのではないでしょうか。それくらい選手にハードワークを要求し続けた1年間でした。
<僕は選手に好かれようとは一切思っていませんし、嫌われてもいいから、その選手を「ラグビー選手として伸ばしてやろう」としか思っていません>(サントリーサンゴリアス公式HP)
16年4月、沢木さんは過去最低のTL9位に終わったチームの再建を託され、監督に就任しました。
沢木さんの目に映るチームの姿は無惨なものでした。
「ラグビーも進化もしていなかったし、取り組み方も全く変わっていなかった。悪い習慣を変えていかなければと考えました」
人が変わらなければ組織は変わりません。異例の人事を沢木さんは断行します。キャプテンに帝京大から入部して、まだ2年目のスクラムハーフ流大選手を指名したのです。
「ラグビーに取り組む姿勢、“うまくなりたい、成長したい”という気持ちが一番強い選手に見えたんです」
日本選手権決勝のパナソニックワイルドナイツ戦で、その流選手がやらかしました。9対3とリードの後半16分。自陣でのパントキックをウイング福岡堅樹選手にチャージされてしまったのです。
こぼれたボールを拾ったのはロックのヒーナン・ダニエル選手。そのまま無人のインゴールに運ばれ、コンバージョンも決まって9対10と試合をひっくり返されました。流選手のミスで、文字どおり“流れ”が変わったかに見えました。
直後、何人かの選手たちが流選手に声をかけていました。どんな会話がなされたのでしょうか。
流選手は語ります。「インゴールにいた時のみんなの表情、発言がすごく前向きでした。“次、もう1回我慢して、ディシプリン(規律)を守って敵陣にいることが大事”とみんなで確認していたんです。“これはチームのミスで取られたトライだ”とも言ってくれたことで、救われた思いもありました。引きずることなく、次に向かうことができました」
その後、サントリーはペナルティーゴールを立て続けに決め、15対10で逆転勝ちしました。「今年はいろいろな状況に対応するトレーニングをしてきた。うまくいかない時もどうするか、次に何をするか」と沢木さん。トライこそ奪えませんでしたが、ディシプリンの面で明らかにサントリーはライバルを上回っていました。
サントリーと言えば、「アタッキング・ラグビー」ですが、沢木さんによると、言葉の定義が明確ではありませんでした。
そこで沢木さんは「スペースに対してアタックを仕掛ける」とコンセプトを明確にしました。「ボールを継続する」ことだけがアタッキング・ラグビーではない、と言い切りました。
<自分たちが思い込んでいたサンゴリアスのラグビーに対するこだわりが、チームの進化を妨げていたのだ>(自著「ハングリーな組織だけが成功を生む」ぴあ)
言われてみれば、その通り。かつてのサントリーにはキックで相手にボールを渡すことを嫌がる空気が存在していました。しかし、それも沢木さんによれば「相手にボールを渡す勇気がなかった」となります。
このように1度チームに染みついた固定観念を覆すのは容易ではありません。そこにチャレンジし、“岩盤規制”ならぬ“岩盤思考”を打ち砕いてみせたところに復活優勝の真の意味での価値があったと思われます。
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