2015年W杯イングランド大会で日本人初のベストフィフティーンに選ばれた元日本代表フルバックの五郎丸歩選手(ヤマハ発動機ジュビロ)が12月9日、来年1月16日に開幕するトップリーグ(TL)を最後に、現役を引退すると発表しました。
来年3月に35歳となる五郎丸選手は発表から1週間後に会見を開き、引退理由をこう説明しました。
「22歳でチームと契約した時から、自分が第一線で活躍できる限界と考えていた35歳で引退することを決めていました。自分に感情がなければ、まだまだできると思います。アスリートは体力だけでなく、気力も大事。気力の部分が自分の中で衰えていると感じ、この35歳という節目で現役を退くことが、自分にとっても周りにとってもベストとの決断に至りました」
五郎丸選手といえば、15年W杯イングランド大会での活躍が忘れられません。プレースキックなどであげた58得点はジャパンの総得点(98)のうちの約6割を占めました。
南アフリカに勝利した“ブライトンの奇蹟”でも五郎丸選手の活躍が光りました。22対29で迎えた後半28分、見事なサインプレーからのトライは強く印象に残っています。
敵陣左のラインアウトからジャパンのアタックは口火を切りました。フッカー堀江翔太選手のスローインをロックのトンプソン・ルーク選手がキャッチし、スクラムハーフ日和佐篤選手、センター立川理道選手、スタンドオフ小野晃征選手、ウイング松島幸太朗選手へと流れるようにパスが回り、最後はフルバック五郎丸選手がインゴール右隅に飛び込みました。五郎丸選手のコンバージョンキックも決まり、ジャパンは29対29と試合を振り出しに戻したのです。
この試合、五郎丸選手は1トライを含む計24得点。右足から放たれる正確なキックで2本のコンバージョンと5本のペナルティーゴールを決めました。
ところで子供たちが真似をしたルーティンの“忍者ポーズ”は、03年W杯オーストラリア大会でイングランド代表をW杯初優勝に導いたジョニー・ウィルキンソンさんから学んだものです。
本人はこう語っていました。
「W杯で大活躍した直後にウィルキンソンさんから指導してもらったことは、私のラグビー人生で本当に大きな、素晴らしい機会でした。ウィルキンソンさんのポーズに非常に似ているというふうに言われますけども、そんなことよりも“世界のトップの選手たちがここまでキックにこだわってプレーをするんだ”ということを、自分の目で見れたことでキックに対しての姿勢も大きく変わりました」
ルーティンのポイントは以下の4つです。
(1)蹴る位置にしゃがみ、ゴールポストを見て、キックティーにボールを立てる。このとき、ボールを軽く回して、ボールの感触を確認する。
(2)立ち上がり、後ろへ3歩下がり、左に2歩動く。立つのは、ボールの位置に対し、ゴールポストとの直線から左45度の角度で入っていける位置。
(3)右腕を肘まで脇につけ、手のひらを前に押し出すように動かして、体重を前に動かすことを意識する。
(4)体重移動を意識して蹴る。(自著「不動の魂」実業之日本社)
これだけのルーティンを完璧に行っても、100%成功する保証はありません。大事なのは、どんな状況下でもやるべきことをやる――。この「やれることは全てやった」との思いが邪念や不安を遠ざけるのです。
それについて五郎丸選手はこう述べています。
「要は、100%の準備を自分がしてきたかどうか。自分がやるべきことを100%やったかどうか。それができていれば、入ろうが外れようが、どっちでもいい。外しても何とも思わない」(同前)
ラグビーに限らず名選手は例外なく、独自のルーティンを持っています。日米で活躍したイチローさんもそうです。どんなシチュエーションでも打席に入る前に屈伸し、右肩の袖を左手で持ち、最後にバットを直角に立てるという動作を行った上で、相手投手と対峙していました。
それはイチローさんがイチローさんであり続けるための儀式だったと言えるかもしれません。考えてみれば、どんな好打者でもヒットを打てる確率は3回に1回。逆に言えば3回に2回は失敗するのです。失敗のたびに頭を抱えていては仕事になりません。すぐさま次へと気持ちを切り替えなければならないのです。
「小事が大事を生む」との格言もあります。ルーティンが結果を生む、と言い換えることができるかもしれません。その意味で五郎丸選手やイチローさんから学ぶべきことは少なくありません。
さて引退後に質問が及ぶと、五郎丸選手は「全くの白紙です」と語り、こう続けました。
「ふたつを同時に考えられるような器用な人間ではありません。不器用で、目の前のことを積み上げてきた人間です。シーズン後、自分の役目を終えた後に、しっかりと考えたいと思います」
ルーティンを大事にしてきた五郎丸さんです。次なるミッションに向け、まずはクールダウン。そしてウォーミングアップ。準備は念入りに行われるはずです。
20年の当コラムはこれが最後の更新となります。新年は1月7日スタートです。読者の皆さま、ご愛読ありがとうございました。来年も宜しくお願いいたします。
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