新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、練習もままならない日々が続いています。感染予防など今まで以上に選手の体調管理が重要視される中、ラグビー日本代表(ジャパン)などが利用する体調管理システム「ONE TAP SPORTS」(ワンタップスポーツ、以下OTS)が注目を集めています。OTSを提供するユーフォリアは、コロナ禍で契約チームが急増。2020年1月時点の350チームから半年間で1200チームと、約3.5倍に増えました。注目を集めるスポーツテックの可能性を、ユーフォリアの宮田誠代表に聞きました。
――日本ラグビー協会との協働のきっかけは?
宮田誠:12年の夏、ラグビー協会のスタッフだった友人からの紹介を受けました。協会は19年W杯の自国開催が決まっていましたし、データでジャパンを強くしていこうという計画を練っていました。協会はそれが実現できるITの仕組みを求めていた。12年の秋にプレゼンテーションを行い、システム開発に取り組みました。
――そこで生まれたのがコンディションを管理するシステム、OTSですね。選手がスマートフォンなどで入力した体の状態を分析することで体調を管理し、そのデータにウエアラブル端末で計測した走行距離などを組み合わせ、現在の体調を数値化するシステムです。
宮田:ジャパンはベスト8入りを目指すため、フィジカル強化を図っていました。そのために日々の練習成果や選手のコンディションを“見える化”したいということでした。約半年でシステムを開発し、13年春の菅平合宿から運用をスタートしました。そこから何百、何千回とカスタマイズしていきました。
――当時の指揮官であるエディー・ジョーンズさんは、選手のみならずスタッフにもハードワークを課すことで有名でした。
宮田:我々が言われたリクエストはシステムを複雑にしないこと。さらには「選手に負担をかけないように、とにかくシンプルでわかりやすいものにしてくれ」というものでした。フィジカルを担当するスタッフ、コーチの方たちはエディーさんから日々、プレッシャーとリクエストの雨あられの攻撃を受けていたそうです。彼らからは「エディーが“こういうデータを見たい”と言っている」との連絡が矢のように入りましたね。
――契約を結んでから最初のW杯となる15年イングランド大会で、ジャパンは優勝候補の南アフリカを破るなど、過去最多の3勝をあげました。
宮田:大会前のOTSユーザーは、ほぼラグビー協会のみでした。勝ち方が劇的でしたし、大会後メディアに取り上げていただく機会もあり、一気にユーザー数は増えましたね。19年W杯日本大会前の18年11月時点で170チームに増えました。同大会で目標であるベスト8進出も達成し、大会後(19年11月時点)には300チームとなりました。
――ジャパン初の8強入りの指揮官は、現在もヘッドコーチを務めるジェイミー・ジョセフさんです。ジェイミーさんも前任者のエディーさんに負けず劣らずハードワークを選手たちに課していました。
宮田:ジェイミー・ジャパンになってからはスタッフも変わり、使用するGPS機器、ハードウェアも変更しましたが、引き続きストレングス&コンディショニングコーチを務めた太田千尋さんが、蓄積してきたノウハウやデータを引き継がれたことで、W杯日本大会での好結果に繋がったのではないかと思っています。
――体制が変わったことにより、求められるものも変わったのでしょうか?
宮田:そうですね。新体制では「選手にわかりやすいようにビジュアルを重視してくれ」と、“見える化”の段階が一段上がった感じがしますね。前体制時と比べ、アナリストの方たちとの打ち合わせも増えました。バラバラになっているデータを一元化し、よりビジュアライズしていったというイメージです。
――今後はどのよう取り組みを?
宮田:このOTSをラグビー以外の競技にも使っていただきたい。さらには、もっと広げていきたいという気持ちもあります。プロ野球でも半数以上のチームに使っていただいていますし、あらゆるスポーツのトップカテゴリーと取り組んできたノウハウを、ジュニア世代にも届けていきたいですね。特に日本ラグビー協会は、育成年代から底上げしていくことが日本全体の強化に繋がるという明確な指針を持っています。そのビジョンに我々も共鳴し、デジタル面でお手伝いをしていきたいと考えています。
――学生スポーツでは選手の入れ替わりが激しく、データ化するのは難しいという意見もあります。
宮田:いえ、決してそんなことはありません。選手が入れ替わってもデータはチームや学校の資産になります。「強豪チームの伝統」と呼ばれるものには、練習方法やケガを防ぐことや生活習慣も含まれていると思うんです。データを伝統の一部として扱うと決めた学校は結果が出やすいのではないでしょうか。例えば今年の全国大学選手権大会で優勝した早稲田大学は、16年からOTSを使っていただいています。貯まっていったデータを基にトライ&エラーを繰り返し、結果に結び付けたと思います。
――ラグビーで得たノウハウを他競技のクライアントにも生かすということですが……。
宮田:20年7月時点、OTSユーザーは68競技にまで増えました。エディージャパンでつくらせてもらったもののベースを残しながら、他競技でも使えるように汎用化していきました。スポーツにおけるフィジカル関連のデータ化は、ラグビーが一番進んでいると思います。例えばワールドラグビーは、公式戦におけるGPSの利用をFIFAよりも先に認可しました。データでケガを予防することや、選手の運動負荷をチームが管理していくサイクルがラグビーにはできていた。だから我々がラグビーからスタートできたことは何よりの資産となっています。もし違う競技から入っていたら、違う結果になっていたかもしれません。
――OTSを使用しているチームが結果を残すことは皆さんにとって励みとなるでしょうね。
宮田:もちろん結果が出ることはうれしいのですが、それ以上にチームが持っているポテンシャルを本番で発揮できた時が一番の喜びですね。勝つことも重要ですが、ベストパフォーマンスを出した先に、何かがあると思うんです。大事な試合の日にケガなくベストパフォーマンスを出すことをお手伝いしたいと考えています。
――クライアントからは「ケガ人が減った」「いい試合ができた」と感謝されることもあると聞きました。
宮田:それが我々の生きる糧ですね。決して選手数が豊富ではないチームから「この戦力で戦い抜くことができた」という言葉をいただいたこともあります。データは再現性が出てくる。資金が豊富なチームでなくともできること。スポーツ界でケガを減らし、コンディションを高め、ベストパフォーマンスを出せるようにIT面から力を尽くしていきたいと思っています。
――コロナ禍によってユーザー数が飛躍的に伸びたと伺いました。
宮田:これは想定外でしたね。我々のOTSは選手たちがスマートフォンなどで入力でき、体調データを遠隔で管理するものです。オンライン、リモートであることが開発の哲学にあった。だから今回のコロナ禍で、そのニーズが顕在化したと思っています。スポーツ界にはデジタルを敬遠される方もいましたが、指導者が離れていても選手の気持ちや体調を見たいという意識に転換せざるを得なくなったのだと。コロナの特徴的な症状をチェックする機能を無料で開放したことも増加理由のひとつだと見ています。
――将来的な市場はどうお考えですか?
宮田:まだ始まったばかり。これからが本番で、今は入り口に立ったぐらいです。国内のスポーツテック市場は小さい。切磋琢磨し、市場を大きくしないといけない段階なんです。国内ではあまり競合する企業はありませんが、ライバルが現れることはポジティブにとらえています。競う相手ではあっても、市場を広げていく仲間である。お互い刺激し合い、成長していきたいと思っています。
――海外で競合する会社は?
宮田:数社ありますね。ただ海外のものは値段が高い。機能が豊富である分、値段が高いんです。スポーツ市場が大きく、強豪チームは膨大な資金を有している。そういう生態系で生まれたものなので、我々とは哲学が違います。ゆくゆくは一般の方々にも使っていただきたく、我々は値段を安くしています。しかし機能は負けないようしないと世界とは戦えない。クライアントである代表チームは世界と戦っているわけですから、我々もIT企業として世界に負けるわけにはいかない。日々、海外のソフトも研究するようにしています。
<宮田誠(みやた・まこと)プロフィール>
1975年10月31日、長野県出身。親族に冬季五輪選手(アルペンスキー)が3人いた影響から、自身も学生時代に選手生活(スノーボード)を送った。明治大学商学部卒業後、商社、エネルギー関連会社、タイヤメーカーでマーケティング業務に従事。退職後は白馬村を中心に、各地でマラソン・トレイルランニング・スキー・スノーボードなどの国際大会の主催・運営、スポーツマーケティング事業を手掛けた。08年に株式会社ユーフォリアを創業し、マーケティング/マネジメントコンサルティング、システム開発を行う。13年に体調管理システム「ONE TAP SPORTS」を開発し、ラグビー日本代表をはじめとする多くのスポーツチームに提供している。
>>ユーフォリアHP
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