1992年からラグビーの得点はトライが5点、ペナルティーゴール(PG)とドロップゴール(DG)が3点、ゴールキック(コンバージョンキック)は2点となりました。2点とはいえ、コンバージョンキックが試合を左右することは少なくありません。2015-16シーズンのトップリーグ(TL)プレーオフ決勝、パナソニック・ワイルドナイツ対東芝ブレイブルーパス戦は、まさにそんな試合でした。
16年1月24日、東京・秩父宮ラグビー場で行われた決勝は、2万4557人の大観衆で埋め尽くされました。このシーズンはジャパンが強豪の南アフリカを破るなど3勝をあげたW杯イングランド大会直後ということもあり、計49万1715人もの観客を集めました。この数字は今も歴代1位です。
パナソニックと東芝には、イングランド大会で名を上げたジャパンの戦士が10人もいました。パナソニックはプロップ稲垣啓太選手、フッカー堀江翔太選手、ナンバーエイトのホラニ龍コリニアシ選手、スクラムハーフ田中史朗選手、ウイング山田章仁選手。一方の東芝はプロップ三上正貴選手、フッカー湯原祐希選手、ロック大野均選手、ナンバーエイトのリーチ・マイケル選手、ウイング廣瀬俊朗選手――。
試合は3年連続4度目の優勝を狙うパナソニックが前半3分に先制。一時は逆転を許したものの、24分に堀江選手のトライ、スタンドオフのヘイデン・パーカー選手のショットで追いつくと、38分にはパーカー選手のPGで勝ち越しました。
3点のリードで後半を迎えたパナソニックは、その後も試合を優位に運びます。20分にはセンターJP・ピーターセン選手のトライなどで、この試合最大となる13点差をつけました。
27対21と6点リードで迎えた終盤、パナソニックはボールをキープしながら、逃げ切りを図ります。だが、モールで前進した際に反則を犯し、相手ボールに。次の瞬間、後半40分経過を告げるホーンがスタジアムに鳴り響きました。
ラストワンプレー。東芝は最後のアタックを仕掛けます。自陣右サイドのマイボールスクラムから左へ展開。センターのリチャード・カフイ選手が突破し、相手を引き付けてからフルバックのフランソワ・ステイン選手にパス。フリーでボールを受けたステイン選手はインゴール手前まで左サイドを独走。トライかと思われましたが、パナソニックの快速ウイング北川智規選手に阻まれました。それでも東芝はラックから攻撃を継続し、右へ展開。中央でボールを持ったカフイ選手は右サイドへキックパス。しかし、蹴った先に味方は走り込んでおらず、弾んだボールをキャッチしようとしたのはパナソニックの堀江選手でした。
だが勝利の女神は気まぐれです。楕円球は不規則に弾みました。堀江選手から逃げていくようにボールはインゴール側へ。バランスを崩した堀江選手を追い越した東芝のウイング豊島翔平選手がボールをキャッチし、そのままインゴールへ飛び込んだのです。
これで東芝の26対27。歓喜に沸く東芝の選手たちを尻目に、パナソニックの選手たちは茫然自失の表情を浮かべていました。最後のショットが決まれば東芝の逆転優勝です。勝敗を分けるキックを任されたのはステイン選手。ゴールまでの距離は約25メートル、キッカーには、向い風が吹いていました。
ベンチに下がっていた両チームの面々は祈るような表情でステイン選手を見つめていました。「“とにかく入ってくれ”と、みんながフランソワ(・ステイン)の右足に願いを込めていました」とは東芝のスタンドオフ森田佳寿選手。一方、パナソニックのパーカー選手は「あの時はナーバスだった。正直、ミスしてくれればいいと思った」との心境だったといいます。
ステイン選手の右足から放たれた楕円球の行方はポスト左へ。この瞬間、パナソニックの3連覇が決まりました。
「これがラグビー。我々があの時点で勝てるポジションにいたことを感謝したい。東芝との差は少なかった」とはパナソニックのロビー・ディーンズ監督。そうこれがラグビー、いや、これもラグビーなのです。
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