勝ち点の上位2チームが突破する1次リーグA組において異変が起きています。2試合を消化した時点でトップは勝ち点9の日本代表(ジャパン)。9月28日、世界ランキング2位のアイルランドを破った一戦は、海外でも“静岡の衝撃”などと大々的に報じられました。
後半18分、ウイング福岡堅樹選手の逆転トライは敵陣からのスクラムが起点となりました。スクラムハーフ田中史朗選手が左に展開。センター中村亮土選手、ラファエレ・ティモシー選手と渡り、俊足の福岡選手がインゴール左に飛び込みました。
4年前のイングランド大会の南アフリカ戦のハイライトシーンを彷彿とさせるような見事なトライでしたが、それ以上に印象に残ったのが、前半35分のシーンです。
その場面を振り返りましょう。スコアは6対12、ジャパンは自陣でノックオンの反則を犯し、アイルランドボールのスクラムとなりました。この日4本目のスクラムは8人がひとつの塊となったジャパンに対し、アイルランドはまとまりを欠きました。第2列の中ほどに隙間ができ、レフェリーから反則を取られたのです。押し勝ったフォワード陣の叫びは“鬨(とき)の声”のようでもありました。
試合後、この試合のプレーヤー・オブ・ザ・マッチに選出されたフッカー堀江翔太選手は「慎さんのスクラムをやれば押されない。プレッシャーをかけられることは想定内です」とこともなげに語りました。
慎さんとは長谷川慎スクラムコーチのことです。長谷川流スクラムに対するFWの絶対的な信頼は、W杯開幕前、7対41と完敗した南アフリカ戦でも聞かれました。以下はプロップ稲垣啓太選手のコメントです。
「南アフリカはニュージーランドからスクラムで相当ペナルティーを取っています。そのチームに対して逆にこちらがレフェリー次第ですけど、頭を抜いたシーンもありました。すべてペナルティーもらえると思ったんですが、もらえなかった。やはり人間が裁くので難しい場面ではありますが、それでもスクラムに対して自信を持てたということは、自分にとって素晴らしいこと。“今までやってきたことが、間違いじゃなかった”と証明できたと思います」
長谷川コーチが常々口にするのは「8人の力を漏らさず伝える」スクラムです。FW8人16本の足、80本の指の位置はもちろん、ひざ、足首の角度、地面に刺さるスパイクの歯の数にまでこだわります。本人に、そこまでこだわる理由について聞くと、次の答えが返ってきました。
「他国に比べると、日本のFWは重量やパワーの点でかなわない。そんな中、我々の持っている力を最大限漏らさず伝えるには、どうすればいいか。そこがポイントです。崩されそうになったら、八人全員でシンクロして、力の漏れそうな部分を埋める。それが他国にはない我々の強みだと思っています」
長谷川コーチには「スクラム番長」というニックネームがありますが、今の彼に対しては「番長」と言うより「技師」と呼んだ方がふさわしいような気がします。
「スクラムの技術を言葉で伝えることのできる日本で唯一の男」
長谷川コーチを、そう評するのは、ラグビー協会副会長の清宮克幸さんです。ヤマハ発動機ジュビロでは監督とコーチの関係で、チームを2014年度の日本選手権優勝に導きました。
清宮さんは続けます。
「スクラムの動きを“こうやって、こうなんだ”と大雑把に指示するコーチはいっぱいいるけど、彼はそうじゃない。例えば“内側の足をあと1センチ下げて”“右ひざをあと3センチ沈めてみろ”“肩の付け根を使うんだ”といった具合に、具体的に伝えることができるんです」
長谷川さんはジェイミー・ジョセフヘッドコーチのたっての頼みで、16年にジャパンのスタッフに加わりました。ヤマハ監督時代の清宮さんに「トップリーグではヤマハのスクラムが一番いい。長谷川を貸してくれ」と直々に依頼があったそうです。
スクラムの強化なくして、ジャパンの躍進なしーー。それが長谷川コーチの信念です。
データが取得できませんでした
以下よりダウンロードください。
ご視聴いただくには、「J:COMパーソナルID」または「J:COM ID」にてJ:COMオンデマンドアプリにログインしていただく必要がございます。
※よりかんたんに登録・ご利用いただける「J:COMパーソナルID」でのログインをおすすめしております。