――土田会長は就任直後、三つの指針を掲げました。「代表強化」については前回お話を伺いいました。あとの二つが「ラグビー人口を増やすこと」と「W杯の再招致」です。
土田雅人: はい。まず「ラグビー人口を増やすこと」についてですが、現在、スクールの数は、2019年W杯日本大会の成功のおかげでものすごく増えました。リーグワンのチームを含め、今後さらに地域でラグビーを支えていく組織をつくりたいと思っています。加えて日本ラグビーの普及を支えるものとして大学ラグビーの存在が大きい。それはラグビーで大学に進学できるという道があるからです。卒業後、プロになれなかったとしても、ラグビー部を持ついい企業に入社することはできる。それがラグビーの強み。大学ラグビーをどう活性化させていくかは、普及のキーになると考えています。
――ご指摘の部分は確かにラグビーの強みですね。その一方で、大学ラグビーは関東に強豪校が集中し、リーグワンも東京を本拠にするチームが多い。中央集権に拍車がかかるのでは、という心配もあります。
土田: サッカーJリーグのV・ファーレン長崎のように、親会社のジャパネットホールディングスが長崎市と共同で約800億円かけて新スタジアムと周辺施設をつくるような動きがあればいいのですが……。今はまだそこまでの力がないというのがラグビーの現状だと思います。
――例えばリーグワン2部の釜石シーウェイブスRFCは日本選手権で7連覇した新日鐵釜石の流れを汲むクラブチーム。ラグビーW杯日本大会会場にもなった釜石鵜住居復興スタジアムを本拠にしている。大きな企業がクラブをバックアップすれば、さらなる盛り上がりを見せるポテンシャルを感じます。
土田: シーウェイブスはたくさんの企業に支えられています。シーウェイブスの存在があるから、子どもたちもそこを目指して頑張れる。私の後輩もチームに関わっていますが、「絶対、続けろよ」と話しています。
――福岡もラグビー人気が高い。にもかかわらず、コカ・コーラレッドスパークス、宗像サニックスブルースが廃部になってしまったのは残念です。
土田: ラグビー普及、地域活性化という取り組みの一つとして、コカ・コーラの練習場跡地を日本ラグビー協会が活用することになりました。既存の施設を使い、日本ラグビーの強化拠点とします。グラウンドが2面、トレーニングルーム、宿泊施設もあります。男女代表、同セブンズの合宿はもちろん、福岡の子どものたちのためのスクールやイベント、大会にも活用したいと考えています。
――三つ目の指針「W杯の再招致」を実現するために、「世界ナンバーワンの協会になる」ことを目標に掲げていますね。
土田: 15年までは年間約40億円規模の財政でしたが、今は70億円以上までに増えてきました。例えばイングランド協会の事業規模は約300億円。まず日本協会として今の倍の150億円に増やせれば、ティア1とも対等に交渉できると考えています。そうすれば南半球の強豪国と協力し、マーケットを広げるチャンスが大きくなる。
――7月に東京・国立競技場で行われたフランス代表とのテストマッチは、チケット単価が1万600円を超えていたそうですね。ラグビーの観客は「富裕層が多い」と言われる所以です。
土田: その点は大きいと思います。サッカーの日本代表対ブラジル代表戦は単価3700円だったと聞きます。ラグビーは野球やバスケットボールのシーズンと比べ、試合数が少ない。ですから付加価値のあるVIP席のチケットを売ることが重要になってきます。10月29日にはオールブラックス(ニュージーランド代表)が日本に来ます。アメリカにオールブラックスが行くと、VIP席で10万円のチケットが販売されています。日本にもファンが多いチームですから、定期的にオールブラックスと試合を組めれば強化面だけでなく、チケット収入という点でも協会にメリットが大きいと思います。
――オールブラックス側にとっても貴重な収入源になりますよね。
土田: はい。ニュージーランド協会としても外貨を稼ぐチャンスですからね。だから日本やアメリカへのツアーを組むのだと思います。
――協会理事に就任したのが15年。翌年に亡くなった盟友・平尾誠二さんの誘いがきっかけだと伺いました。現在の会長という職務も平尾さんとともに歩んでいるような感覚でしょうか?
土田: そうですね。平尾に誘われた当初、私はサントリーフーズの代表取締役社長で理事になるなんて全く考えていませんでした。その年の9月に平尾にガンが見つかったのですが、彼は発症後も理事会に顔を出していました。12月の理事会で彼はこう言いました。「代表が強くなければ協会はダメだ。代表が強くなり、メディアを呼んで、いい試合を組む。そこでちゃんと稼いで、日本ラグビーに還元していく」と。その言葉は今もずっと頭に残っています。
――それが「代表強化」を一丁目一番地に置いている理由ですね。
土田: 底辺拡大も大事なことだと分かっていますが、それを先頭で引っ張っていくのは代表ですからね。
――代表強化の下支えとして、今年1月にスタートしたリーグワンの成功もカギになります。
土田: もちろんです。トップチームの事業規模は約20億円かかると聞いています。それを親会社が全額補填していたのでは、経営の浮き沈みによって部の存続が左右されてしまう。チームとしてどう稼ぐか、売り上げを創出していくことが大切です。リーグワン初年度は各チームが、スポンサー集めやチケット販売、ファン獲得など、これまで経験してきていないことにも取り組んだ1年でした。コロナの影響もあって、想定よりは入場者数を望めなかったかもしれませんが、タダ券を配っていた時代と比べれば大きく変わった点だと思います。
――TMO(テレビジョン・マッチ・オフィシャル)について伺います。判定に正確さを求めるとはいえ、1試合に何度も入るのでは、試合の流れを遮断するという意見もあります。
土田: そうですね。初年度のリーグワンは平均2分かかったと聞いています。それでは長過ぎる。その点はファン目線に立って、考えなければいけません。スクラムの組み直しやTMOは回数を減らしていいと思っています。
――会長の任期は2年で、定年が70歳。あと10年はできますね。
土田: いやいや、いつでも責任をとる準備はできていますよ、アッハハハ。現在、ラグビーのコアなファンは国内で40万人と言われています。まずは現在の5倍、200万人を目指します。リーグワンがスタートして、各企業も上を目指そうと、いろいろと頑張ってくれている。我々、協会も力を尽くします!
(了)
<土田雅人(つちだ・まさと)プロフィール>
1962年10月21日、秋田県出身。現役時代のポジションは主にナンバーエイト。秋田工業高を経て同志社大に進む。同学年の平尾誠二とともに大学選手権3連覇に貢献した。85年、サントリーに入社。主将を任されるなど、10年プレー。引退後は監督に就任し、95年度の日本選手権を制し、チームを初の日本一に導いた。97年から99年まで日本代表のFWコーチ。2000年にサントリーの監督に復帰すると、就任2年目で公式戦全制覇。3年目は日本選手権連覇を達成した。15年6月より日本ラグビー協会理事に就任。今年6月、日本ラグビー協会会長に就いた。著書に『勝てる組織』(小学館)、『「勝てる組織」をつくる意識革命の方法』(東洋経済新報社)がある。
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