先頃、トップリーグ(TL)に所属するNTTコミュニケーションズシャイニングアークスが、元スコットランド代表主将でスクラムハーフのグレイグ・レイドロー選手の加入を発表しました。昨シーズンの南アフリカ代表フッカー、マルコム・マークス選手獲得に続く、大型補強です。フランスのプロリーグ「トップ14」リヨンOUとパートナーシップ契約を結ぶなど、独自の戦略を描くNTTコミュニケーションズ。その仕掛人である内山浩文GMに話を聞きました。
――昨シーズンは「世界最高のフッカー」と呼ばれていた南アフリカ代表33キャップのマークス選手、今シーズンはスコットランド代表76キャップのレイドロー選手。2シーズン続けてのビッグネーム獲得です。
内山浩文:我々は2010-11シーズンからTLに昇格し、最高成績は5位(16-17、18-19シーズン)。成績は安定してきていますが、4強には届いていない。彼らの獲得はその殻を破るために必要なピースは何かを考えてのものです。昨年獲得したマークスはセットプレーの強化が目的でした。
――レイドロー選手はスコットランドが誇る世界的な司令塔。プレースキックは正確無比です。
内山:レイドローにはプレー面のみならず、オフ・ザ・ピッチでの貢献に期待しています。我々は社員選手が約6割を占めるチーム。彼には強いリーダーシップを発揮し、ピッチ内外でプロフェッショナルな姿勢でまわりを引っ張って欲しいと思っています。
――W杯2大会(2015、19年)を含め、ジャパンとの対戦経験も多く、日本にも馴染みの深い選手です。
内山:前所属のASMクレルモン・オーヴェルニュとの契約が19-20シーズンまでということで、彼とはその契約が切れる前の昨年12月に交渉を始めました。レイドロー自身、日本でのプレーに興味を持っていました。我々の練習拠点であるアークス浦安パークなど施設面の充実も決め手となったようです。
――契約期間は2年。昨年末にスコットランド代表から引退を表明し、年齢は34歳です。
内山:先ほどはオフ・ザ・ピッチでの貢献と申し上げましたが、彼の今までの経験値は企業の経営課題、管理者育成の講習にも使えるのではないかと考えています。
――チーム強化という枠を越え、会社にも好影響を与えてくれると?
内山:はい。我々は「ソーシャルにラグビーを繋ぐ」をテーマに活動をしています。NTTコミュニケーションズの庄司哲也前社長は「ライフがあってワークがある」とよく口にされていました。我々はいかにラグビーチームとして、ライフを充実させるかに重きを置いています。
――昨年11月にはトップ14のリヨンとパートナーシップ契約を結びました。
内山:昨年6月からフランスに渡り、交渉してきました。我々はがんの治療研究を応援する「deleteC(デリート・シー)」というプロジェクトに賛同しています。リヨンには総合がんセンターがあり、日系企業も多い。リヨン側は日本ラグビーにおけるビジネスチャンスを感じてくれたようですし、我々はリヨンのスタジアムやグラウンドを中心としたまちづくりが活発に行われていることを学びたいとの思いから契約にこぎつけました。
――リヨンとの契約期間は2024年のパリオリンピック・パラリンピック大会までだそうですね。
内山:フランスは23年にW杯を控えています。僕は開催国の協会と、そこに付随しているリーグが最先端になると思っている。その最先端の情報をタイムリーにインプットできるところと手を組みたかったんです。我々にとって、新リーグに向けて事業性を高めることは未知の世界です。トップ14は興行的に最も成功しているラグビーのプロリーグですから、そのリーグから学びたいという思いも当然ありました。
――具体的にリヨン、トップ14から新リーグに生かせそうなことはありますか?
内山:やはりエンタメ性の高さでしょう。選手の出身国の文化に触れさせる仕掛けが充実していました。例えば昨年、ウイングの山田章仁が、シャイニングアークスからリヨンにレンタル移籍した際には、試合会場に日本のブースを設け、ファンの方々を楽しませていました。フランスのホスピタリティ事業はかなり手厚いと感じましたね。
――近年はスポーツホスピタリティに注目が集まっています。
内山:とりわけスタジアムにおける飲食は充実していましたし、選手たちとの交流の場も設けていました。“選手とファンとの距離がこんなに近いんだ”と感心しましたね。ラグビーは試合時間が決まっており、ある程度時間を読めるスポーツです。試合の前後をどうエンターテインメント化するか。そのためにチームや選手をどう活用するかなど、フランスには多くのヒントがあったと思います。
――リヨンとのパートナーシップ契約の中には、サブスクリプション(定額課金)というかたちで、若手選手を自由に補強できるというスポーツ界では珍しい契約があります。
内山:野球やサッカーでも聞いたことがありません。おそらくチーム間のサブスクリプションは初めてだと思います。
――このパートナーシップは、NTTコミュニケーションズに所属する選手のトップ14挑戦の後押しに繋がりますね。
内山:実際にレンタル移籍を経験した山田も言っていましたが、日本のチームに籍を置きながら海外のクラブと契約できるのは、選手にとってありがたい仕組みだと思うんです。TLのレギュラーシーズンは約半年。それ以外の時間をどう強化に充てるかも大事です。異国の文化、スタイルに触れることで、自分のチームが客観的に見えるのではないか。向こうでキャリアを積むこと以外にも、選手のマインドを醸成することがチームの強化にも役立つと思っています。
――チームとして今後の目標は?
内山:我々は選手たちのキャリアを考えながら、ラグビーの普及にも力を入れていきたい。選手が現役を引退し、会社で出世していくこともひとつの道ですが、我々は地方に異動し、地域活性化のお手伝いをすることも大事だと考えています。令和の時代のアスリートは、地方創生、スポーツでのまちづくりに貢献すること。だから選手たちにはチームビルディング研修や健康経営など、いろいろと学んでもらっています。アスリートとしてのキャリアは、現役を引退した瞬間に終わるという時代ではなくなったと思うんです。選手がラグビーをやりながら社会を学び、世の中に対し、存在価値を、どう見出せるか。我々が目指すビクトリーとバリューという2つのVには、そんな意味が込められています。
――企業スポーツの殻を破っての新しい試みですね。
内山:そうですね。チャレンジしていくしかないと思っています。会社にもラグビー界のためになることをやっていきたい。今の企業スポーツのままだと、運営のトップがスポーツ好きではなくなった場合や、お金を稼げなくなった瞬間に終わってしまう。そうやってチームを手放してきた企業を数多く見てきました。我々はこれからもどんどん仕掛けていきたいと思っています。
<内山浩文(うちやま・ひろふみ)プロフィール>
1980年11月12日、宮崎県生まれ。小学5年でラグビーを始め、中学はソフトテニス部に所属。日向高校から本格的にラグビーを始め、中央大学、社会人チーム、NTTコミュニケーションズでプレーした。09年に現役を引退。2年間社業に専念した後、11年度からはチームコーディネーターとして、金正奎やアマナキ・レレィ・マフィなど現在の主力を加入させた。16年には日本ラグビー協会に出向。17年からGMに就任した。
データが取得できませんでした
以下よりダウンロードください。
ご視聴いただくには、「J:COMパーソナルID」または「J:COM ID」にてJ:COMオンデマンドアプリにログインしていただく必要がございます。
※よりかんたんに登録・ご利用いただける「J:COMパーソナルID」でのログインをおすすめしております。