都内で初雪が観測された1月12日、東京・秩父宮ラグビー場で全国大学選手権大会決勝が行われ、明治大学が天理大学を22対17で下し、22年ぶり13度目の優勝を果たしました。
明大の22年ぶりの戴冠は、周到な準備によってもたらされました。
その代表的なシーンが前半22分の得点でした。プレーを振り返りましょう。敵陣右でのラインアウトからボールを受けたスクラムハーフの福田健太選手が左に展開する振りをすると、彼と交差するように走り込んできた選手がいました。ウイングの高橋汰地選手です。福田選手は反転して内側にパス。天理大の守備陣は外への警戒を強めていたため、完全に逆を突かれました。抜け出した高橋選手はそのまま右中間にトライをあげました。
この「タンク・エックス」と呼ばれるサインプレーは天理大対策として練り上げた秘策でした。高橋選手は「天理さんのシステムを分析した時にそこが空くとの情報を得ていました」と、してやったりの表情で語りました。この分析は主務の喜多川俵太さんによって行われました。
喜多川アナリストの仕事はこれだけにとどまりません。チームの士気を高めるモチベーションビデオも作成しました。聞けば、試合前の控室で流したビデオには「日本一のBチームと練習しているのだから日本一になって欲しい」とメンバー外の選手からのメッセージもあったそうです。田中澄憲監督は「勝ち負けを意識するのではなく、メンバー外の選手が誇りに思える試合をしよう」と言って、選手たちを送り出しました。その効果は絶大でした。キャプテンの福田選手は校歌を泣きながら歌うほど気持ちをたかぶらせていました。
試合後、田中監督は「部員126名の努力とハードワークが最後に最高のかたちで表れて非常にうれしい」とチーム一丸での勝利を強調しました。
周到な準備と固い結束力――。その結晶が22年ぶりの大学日本一でした。
さて、この風景には既視感があります。そうです。4年前のW杯イングランド大会、南アフリカからの大金星です。これも「周到な準備と固い結束」によるものでした。
レフェリーの分析については小欄(2018年11月29日更新)でも述べたように、早くから南アフリカ戦で笛を吹くジェローム・ガルセス氏のレフェリングのクセを研究し、本番に生かしました。同大会でジャパンのアナリストを務めた中島正太さんは<我々スタッフに対しては、「世界で最も準備されたチーム」を目指すことが強く指示された>(日経BPデジタル版2016年3月4日」と当時の状況を明らかにしました。
“裏方”としてチームに貢献するのはスタッフだけではありません。ジャパンがイングランドで戦った4試合、ベンチ入りしなかった選手がいます。廣瀬俊朗さんと湯原祐希選手です。試合には出なかったももの、2人はジャパンの躍進に貢献しました。チーム最年少だった藤田慶和選手は「(2人は)ひとつも文句を言わず、一番ハードなことをやっていた。相手の研究をしてアタックをAチームの人たちにぶつけてくる。そういうことがあったからこそ勝てた。結束力がジャパンの一番の強みだった」と語っていました。
ではリーチ・マイケル選手にキャプテンを譲った廣瀬さんは、どんなことをしていたのでしょう。
「分析ソフトを使って、対戦相手の研究をしました。例えば、相手ボールのラインアウトを10シーンくらい観ます。そうすると、“この時はこうくる”“ここはこうくる”と、だいたい相手の傾向がわかってくるんです。その分析結果をもとに選手にはコーチが説明します。僕はバスの中など、ちょっとした時にアドバイスをしました。練習では対戦相手の癖を真似たりもしました」
こうした“縁の下の力持ち”的な活動により、仲間たちから、いっそうの信頼を得た廣瀬さんですが、複雑な思いもあったそうです。
「もちろん悔しい面もありました。でも自分たちには大義があった。そのためにはやれることは試合に出ても出ていなくても、必ずある。それを全うしただけのことです」
チームの士気を高めるためのビデオメッセージも廣瀬さんの発案です。
「最初に僕がこのアイディアを提案しました。今まで代表に関わった人の言葉やトップリーグの各チームから日本代表へのコメントを集めました。代表選手には、“日本にいる仲間がこれだけ応援してくれているんだ”と感じて欲しかったんです」
これにより、「結束を強めた」ジャパンは、南アフリカ戦を含む過去最多の3勝をあげました。明大・田中監督はサントリー時代にエディー・ジョーンズ前ジャパンHC(現イングランドHC)の薫陶を受けています。そこで学んだ「準備の重要性」を明大に応用しました。これも“エディーの遺産”と言っていいかもしれません。
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