10月20日は、“ミスターラグビー”と呼ばれた平尾誠二さんの6回目の命日です。平尾さんには現役時代から折に触れてインタビューしてきましたが、今読み返しても、その“鮮度”は失われていません。今回は故人を偲びながら、在りし日の言葉を、もう一度噛み締めてみたいと思います。
まず紹介するのは1995年10月に行ったインタビューです。平尾さんは32歳。神戸製鋼(現コベルコ神戸スティーラーズ)が日本選手権7連覇を達成した9カ月後のものです。
7連覇中の神戸製鋼には全国の大学から有力選手が数多く集まり、“エリート集団”と呼ばれていました。展開するラグビーも先進的で大学生にとっては羨望の的でした。
しかし、平尾さんは“エリート軍団”と呼ばれることを嫌っていました。「それ(批判)で終わっていたのでは先に進めないよね」と、むしろ残念そうな口ぶりでした。
「実は、ウチは不利な条件が多いんですよ。主流のチームは東京が多いし、彼らに神戸まで来てくれと誘うには、何か魅力を提示しなくちゃいけない。契約金なんてない世界ですからね。それなのに、やっと選手を連れてくると批判される。変な話ですわ」
では、平尾さんは、どのようにして選手を口説いていたのでしょう。
「僕の場合だったら、神戸製鋼というチームの持つ考え方とか方針を訴えて、魅力を感じてもらいたいと思う。ウチにくれば新しくて高度なラグビーをやることができるよ、とか。そうなると必然的に向上心のある選手が集まってくる。何かを吸収したい。あるいは何かを実現したいと思っている選手たちが。
具体的に言えば元木(由起雄)と吉田(明)が同じ年(94年)に入ってきた。だったらお前らふたりで、今までできなかったことができるじゃないか。新しい世界を創ってみろよ、と。そのイメージを僕がポーンと与えてやる。すると、“あぁ、そうや”と言って自分なりに僕の授けたイメージを再構築し始める。そこが面白いんです」
――ケミストリー、化学反応ですね。
「いいモノといいモノが合わさったら、もっといいモノができるということですよ。当然のようにね」
平尾さんは選手の能力を数値化する一方で、「ラグビーは単純な足し算ではない」とも言っていました。
「ラグビーは人間の関係性で成立するスポーツですから、7の選手と10の選手を足して17、とはいかないんです。また、その程度の数値化だったら面白くない」
また平尾さんは後輩たちに「イマジネーションを大切にしろ」と口を酸っぱくして言っていました。「これが抑圧されると、いいプレーもいい仕事もできない」とも。
「僕はスポーツから忍耐とか協調性しか学べなかった人間は、ろくなもんじゃない。いいプレーもいい仕事もできないと思いますよ。だから僕は選手を選ぶ場合、あくまでも実力のみで評価するんです。
たとえばAという選手はものすごくセンスはいいが、あまり練習が好きではない。一方、Bという選手はセンスはないんだけれど、とりあえず一番早くからグラウンドに出て最後まで残っているし、協調性もある。そうすると日本人は得てして“ひょっとしてBのほうがいいのではないか?”と錯覚すると思うんです。でも僕は絶対にそれだけはしない。なぜなら、僕はそんなに遅くまでグラウンドに残って練習見てないですから(笑)」
立て板に水のように話す平尾さん。旧態依然としたラグビー界、スポーツ界を舌鋒鋭く論じる一方で、改革のための処方箋を提示することにも熱心でした。次回は、そのあたりについても振り返ってみたいと思います。
(後編につづく)
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