成功裏に終わったW杯の余熱を、どう次につなげるか。11月13日、日本ラグビーフットボール協会理事会において新プロリーグ設立準備委員会の設置が承認されました。プロ化の先頭に立つのは、日本協会の清宮克幸副会長です。19日にさいたま市で行われた「スポーツビジネスジャパン2019」内のパネルディスカッションで、構想の一部を明らかにしました。
そもそもなぜ今、プロ化なのでしょう。清宮副会長は力説します。
「世界のラグビーはおそらく再編されます。今は北と南に分かれているラグビーが、タテ(東西)に分かれる時代がやってくる。そのタイムゾーンによって、ラグビー界が2つに分かれた時、日本が中心にいるべきなんです。そのためには今プロリーグを立ち上げておかないと世界のリーダーにはなれない」
ラグビー界にはティアと呼ばれる“階層”が存在します。現在、日本はティア2に属しています。最上位のティア1には10カ国・地域が君臨しています。メンバーは北半球6カ国・地域(イングランド、スコットランド、ウェールズ、アイルランド、フランス、イタリア)、南半球4カ国(オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ、アルゼンチン)――。
清宮副会長の言う「縦に分かれる」とは、西は北半球6カ国・地域を中心としたヨーロッパ、東はニュージーランド、オーストラリアなどに日本を加えた環太平洋地区を指しています。
世界のラグビーの勢力図を変えようというのですから、大胆な試みです。しかし、そのためには何を措いても国内リーグのプロ化を成功させなくてはいけません。清宮副会長は続けます。
「ラグビーのプロ化については“年間の試合数が少ないし、選手の数もたくさん必要。プロ化しても採算が取れない”という声がたくさんある。しかし僕らは世界をマーケットに考えています。放映権でこのリーグ成功させようと決めているんです。世界のラグビーファンの注目を新リーグに集めるため、集めた資金を投資するんです」
プロ化については、確かにそのリスクを懸念する声が方々から聞こえてきます。だが、しなかったリスクも同時に考えなければいけません。
企業がラグビー部を持つ目的は主に①福利厚生②社威発揚③広告宣伝と3つあります。企業業績が好調なうちはいいのですが、業績が悪化すると、まず切り捨てられるのがスポーツだったという過去の歴史を忘れてはいけません。どの企業も、毎年15億円前後の巨費をラグビー部の運営に投じていますが、この先も続く保証はどこにもありません。個人的には、プロ化のリスクより、“しなかったリスク”の方が、はるかに高いように思われます。
2週間前の小欄にも書きましたが、4年前、ジャパンは南アフリカを破るなど3勝をあげ、“凱旋帰国”を果たしました。しかし、その1カ月後に開幕したトップリーグ、東京・秩父宮ラグビー場での初戦はパナソニック ワイルドナイツ対サントリーサンゴリアスという好カードだったにも関わらず、スタンドの両サイドは閑散としていました。
「ラグビーが負けた日です」とのパナソニック(当時)田中史朗選手の一言を受け、日本協会の小西宏事務局長(当時)は、こう語りました。
「心よりおわびします。取り返しのつかないことをして、多くの皆さんを失望させてしまった。現場(選手)に比べて(協会は)プロと呼べない状態です。深く反省しています」
同じ失敗を2度と繰り返すわけにはいきません。プロ化とは、選手のみならずフロントも含め、全員が持ち場持ち場においてプロフェッショナルに徹するということでもあるのです。失敗には責任が、成功には報酬が伴うのは当たり前のことです。
19日のパネルディスカッションに参加した日本トップリーグ連携機構会長の川淵三郎さんは、自らが立ち上げたJリーグでの経験を踏まえ、こう念を押しました。
「ラグビーのプロ化で何が必要かと言うと、ホームスタジアムとホームタウンです。ともかくこの2つが全ての条件の中で一番重要です。ホームスタジアムの確保をきちんとできるのか、ホームタウンをどこにするのか。逆に言えば、“ホームタウンをここにしよう”と思っても、そこにホームスタジアムがなかったらチームとして成り立たない。地域の人がそのクラブを応援できませんからね」
地域密着の理念を抜きにして、新リーグを展望することはできません。プロ化による最大の受益者は誰なのか。言うまでもなく、それはラグビーを、そしてスポーツを愛する国民であるはずです。
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