日本ではケガに強く、長きに渡って試合に出続けるアスリートを“鉄人”と呼びます。ラグビーで“鉄人”と言えば、歴代最多98キャップを誇る大野均さん、46歳まで現役を続けた元ジャパンの伊藤剛臣さんらレジェンドの名前が思い浮かびます。現役選手では、ジャパンのプロップ稲垣啓太選手でしょうか。
32歳の稲垣選手は7月6日時点で通算41キャップ、W杯は2015年イングランド大会、19年日本大会の2大会に出場しました。豊富な運動量に加え、当たり負けしない屈強な体、チームへの惜しみない献身は2大会で証明済みです。
所属する埼玉パナソニックワイルドナイツでも不動のレギュラーとして、リーグワン初年度はプレーオフトーナメントを含めた15試合に出場、チームの初代王座獲得に貢献しました。ベストフィフティーンの選出は前身のトップリーグを含めるとルーキーイヤーから8季連続(19-20シーズンは中止)です。また通算8回は9回の大野さんに次ぐ歴代2位タイ、現役選手としては最多です。
ケガとは無縁な印象の稲垣選手ですが、昨年夏には右ヒジと右アキレス腱にメスを入れました。その事実を明らかにしたのは今季リーグワン最終戦(プレーオフ決勝)後のことです。
「前回(昨年秋)の代表戦前に2カ所、突貫で手術して、身体は6キロしぼみましたね。なかなか難しい代表活動でした。ケガは何の言い訳にもならないですし、自分がこの手術が必要だと思ってやっただけ。ただ、思った通りの仕上がりにはならなかった。(本調子と比べ)70パーセントの状態でしたが、自分の中での100をつくリました」
本人曰く「70パーセントの状態」ながら21年秋の代表戦は4試合中3試合に出場しました。
稲垣選手は語ります。「やり続けることに価値がある。ケガをして休んでいる間は、選手でも何でもない。ケガをしていても自分の中で100をつくっていくのが選手の役割。本当に無理な時は仕方ありませんが、自分ができると判断したらやるべきです」
そういえば以前、「漢とは?」との昭和風の質問に「人に弱みを見せないこと」と答えていた稲垣選手の無骨な姿が思い浮かびました。
そんな稲垣選手には“哲人”のイメージもあります。メディアには“笑わない男”と呼ばれていますが、それは無愛想を意味しません。プレーやシステムを言語化する能力に長けており、むしろメディアにとってはありがたい存在と言えます。
6月25日、ジャパンは北九州でのウルグアイ代表戦に勝利しました。スコアは43対7。完勝でした。試合後の会見では、珍しく2本も披露したオフロードパスに質問が及びました。
1本目は後半5分、相手のタックルを受けながら、自身の左側を走るセンター梶村祐介選手に送ったパス。それについての回答です。
「パスが少しずれたとしても(スペースのある)外へボールを運んだ方がいいと感じたので、梶村選手にオフロードパスをしました。スペースがあったのでゲインは切れると思っていました」
2本目は20分、敵陣でタックラーに捕まりながらも、左手一本でロックのジャック・コーネルセン選手につなぎました。その後のプレーでウルグアイの選手にイエローカード(10分間の一時退場)が出され、ジャパンにはペナルティートライが与えられました。
「しっかり準備していたプレーだった。あのシチュエーションでは少しでも不安があれば放らない。準備できていたからこそ自信を持って放ることができた」
2本のオフロードパスにフランスへの準備が見て取れました。進化への歩みを止めない32歳です。
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