ラグビーはかつて交代の許されないスポーツでしたが1968年、国際試合において選手が負傷した場合に限り交代が認められるようになりました。96年からは負傷理由以外の交代、いわゆる“戦術的交代”が可能になりました。現在はリザーブ8人全員の出場が認められ、1試合で最大23人がピッチに立つことができます。そこで問われるのが指揮官の用兵術です。今回はパナソニックワイルドナイツのロビー・ディーンズ監督にスポットを当てました。
ディーンズ監督はニュージーランドのクルセイダーズをスーパーラグビーで5度の優勝に導き、オーストラリア代表のヘッドコーチ(HC)も務めた世界的名将です。2014年から指揮を執るパナソニックでも2度のリーグ優勝、1度の日本一を達成しています。
ロビー・パナソニックの今季の戦いぶりを振り返りましょう。
【スコア(前半、後半)】
第1節 55対14(20対7、35対7) 対リコーブラックラムズ
第2節 60対12(15対5、45対7) 対日野レッドドルフィンズ
第3節 47対0(11対0、36対0) 対キヤノンイーグルス
第4節 26対13(10対7、16対6) 対NTTドコモレッドハリケーンズ
第5節 62対5(22対0、40対5) 対NECグリーンロケッツ
全く危なげない内容です。特筆すべきは後半のスコア。第1節から順に35対7、45対7、36対0、16対6、40対5。後半の強さは、指揮官の巧みな選手交代の賜物です。
第1節のリコー戦は後半8分、最大で13点あったリードを6点差にまで迫られました。そこで12分に“4枚代え”を敢行しました。その3分後に途中出場の福井翔太がトライをあげるなど、後半だけで5トライ。55対14と快勝しました。
第5節のNEC戦では後半開始早々、フランカー布巻峻介選手とベン・ガンター選手の交代を皮切りに、12分まででリザーブ全員を使い切りました。後半は前半の倍の6トライをあげ、相手の反撃を1トライのみに抑え、62対5で圧勝しました。
試合後、フッカーの坂手淳史キャプテンは「後半、フィニッシャーがいいゲームの進め方をしてくれ、こういう点差になったと思います」と振り返りました。
坂手選手自身はこの試合、46分の出場にとどまりました。ここまで5試合すべてにスタメン出場を果たしていますが、いずれも後半15分以内に堀江翔太選手と交代しています。
「いつもロビーさんは言っています。先発メンバーには先発メンバーの役割がある。一方、ウチでは“マッド”と呼ぶ16番から23番の選手たちの役割もある。スターティングの選手はもっと長い時間プレーすることもできますが、それにこだわってはいません。後に控えている選手は信頼の置ける選手ばかり。スターティングの選手たちが力を出し切れることが、ウチの強みだと思っています」
“スターティング”と“マッド”の関係については、坂手選手と堀江選手がチームの公式YouTube(2021年3月4日配信)で、こう述べています。
「(“マッド”に対して)僕たちはすごく自信を持っている。その人たちがいるからこそスターティングの15人はガス欠になってもいいと全力を出せる」(坂手選手)
「僕もスタートで出て、坂手が後半控えていれば(前半の)40分で出し切るイメージでプレーする。アタックではひたすら前にボールを持っていく。ディフェンスは最前線でタックルをする。自分の役割を100%こなしたいと思っています」(堀江)
選手起用の巧みさで印象に残るのは前日本代表のHCで、現在はイングランド代表の指揮を執るエディー・ジョーンズさんです。サントリー、日本代表でエディーHCの下でプレーしたロックの真壁伸弥さんから以前、こんな話を聞きました。
「本音を言えば、最初は(ロックのレギュラーの)5番のジャージを着たかった。でもエディーさんがHCになってからは18番、19番にも誇りを持てるようになりました。力が落ちるからリザーブなのではなく、後半の武器として考えてくれている。試合に出ていないメンバーを含めて、全員に役割と居場所がある。それが本当に強いチームだと思うんです」
真壁さんは15年W杯イングランド大会で“フィニッシャー”として活躍しました。歴史的勝利をあげた南アフリカ戦では後半13分に投入され、逆転トライへのスクラムを支えました。この試合、ジャパンはベンチ入りの23人全員がピッチに立つ文字通りの総力戦で奇跡を起こしたのです。
エディーHCの用兵術は19年W杯日本大会でも冴え渡りました。そのハイライトが準決勝のイングランド対ニュージーランド戦でした。
「フィニッシャー(最後の15人)を先に決めてから、スタートの15人を決めました。というのも最後の20分が一番重要な時間帯だからです。フィニッシャーの彼らは素晴らしい仕事をしてくれました。その結果、ニュージーランドはなかなか勢いに乗ることができなかった」
前半10対0とリードしたエディー・イングランドは、後半からウイングのヘンリー・ススレイド選手、プロップのダン・コール選手らを矢継ぎ早に送り出しました。彼ら“フィニッシャー”たちの奮闘で「一番重要な時間帯」とエディーHCが言うラスト20分間をしのぎ切り、19対7で逃げ切ったのです。
10年前、エディーHCと話をした際、メジャーリーグの継投術に花が咲きました。ヤンキースのクローザー、マリアーノ・リベラ投手を絶賛し、セットアッパーであるデビッド・ロバートソン投手の仕事ぶりを讃えたのです「この人はどれだけラグビー以外のスポーツに詳しいんだろう!?」と驚いたことを覚えています。残り時間や点差をにらみつつ、誰を、どこで、どう使うか。ベンチのみならず指揮官の“脳内”も総力戦です。
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