来年1月開幕予定の新リーグ「JAPAN RUGBY LEAGUE ONE」(ジャパンラグビーリーグワン)に参加するNTTコミュニケーションズシャイニングアークス東京ベイ浦安が、チームデータを活用したデータ分析コンペ「ARCS IDEATHON」(アークス・アイデアソン)を開催しました。これはラグビー界初の試みです。このコンペはGPSや病傷記録といったデータの分析方法やレポート内容を競うもの。一般公募により、予選には28チーム、約40人が参加しました。この企画を立ち上げた木下倖一ヘッドオブアナリシスに話を聞きました。
――「ARCS IDEATHON」を始めたきっかけは?
木下倖一: 元々データサイエンティスト(意思決定の局面において、データに基づき、合理的な判断を行えるように意思決定者をサポートする人、職務)が集まるコミュニティのイベントに参加したりしていて、そうしたデータサイエンスを勉強する過程でデータコンペの存在を知りました。NFL、MLBではリーグが主体となってデータを公開し、コンペを開催しています。その一方で、私はラグビー界はまだデータ分析が進んでいないなと感じていました。それで“ラグビー界でもデータ分析コンペのようなことをやってみたい”と考えるようになりました。昨年秋、シャイニングアークスに入った際に、内山浩文GMに相談すると、快諾していただけたんです。
――NTTコミュニケーションズには、今回のコンペをはじめ、新しいことにチャレンジする姿勢が窺えます。
木下: そうですね。私がこのチームに加わる前、内山GMとお話をさせていただきました。そこで他のチームがチャレンジしていないことにチャレンジしていく姿勢を感じ、“このチーム面白そうだな”と強く思い、契約に至りました。
――今回のコンペ参加チームに対し、秘密保持契約書に同意してもらっているとはいえ、データをオープンにすることへの反発は、チーム内になかったのでしょうか?
木下: そこは私も身構えていた部分でしたが、意外に大丈夫でしたね。選手からはむしろ「得られた結果を教えてほしい」とポジティブな反応の方が多かった。
――「トレーニングデータを用いたラグビー選手の傷害予測、予防等に関する分析」をテーマにコンペを行いました。7チームで争われた決勝を終えての手応えは?
木下: いろいろな方々にデータを見てもらった時に、私たちが既に実施していることの正しさを改めて証明してくれたチームもありました。同じ内容でも第三者がデータから導き出した分析結果によって、私たちが選手、スタッフに示してきた内容にも説得力が増すと思うんです。あとはコンペの参加者の方が楽しんでいただけたことが私はうれしかったですね。
――コンペで順位を決めるだけのものにはしたくなかった、と?
木下: 一イベントとして参加者が魅力的に感じるものでなければ、開催する意味の半分ぐらいは無いと思っていました。今回のコンペで、データをきちんと「分析」できるデータアナリストたちがラグビー界に入ってくる可能性が広がったかなとは思っています。
――予選には何チームが参加を?
木下: 約90人から応募をいただき、そのうち予選レポートを提出したのが28チーム約40人でした。予選は、各チームのレポートを私と私の所属する「Sports Analyst Meetup」という団体のデータサイエンティストが2人、シャイニングアークスのメディカルとS&Cのスタッフ、計5人で審査しました。決勝に進んだのは7チームでした。
――参加者はラグビー経験者が多かったのでしょうか?
木下: 企業のデータサイエンティストを中心に様々な職種の人にエントリーしてもらいました。決勝まで勝ち上がったチームのメンバーの中にラグビー経験者はほぼいなかった。ラグビー業界の元関係者や、トップチームでの経験がある人もいませんでした。いても学生時代にラグビー部だったという人、ラグビー部の学生ぐらいでした。
――予選のレポートを審査して感じられたことは?
木下: 全く現場にいない人間にデータを渡した時、どのような結果が生まれるのかを楽しみにしていました。実際、私たちが使ってこなかった数字を組み合わせた指標を用いて、より現場で有効活用できそうな手法を示してくれたレポートもいくつかありました。
――今後のチームづくりに生かせそうだと。
木下: そうですね。正直なところ、まだチームはデータ分析の基盤が整っていません。今回のコンペを開催することによって、チーム内におけるデータの取り方、保存法、活用の仕方など、分析の基盤づくりにつなげる狙いもありました。だからチームとしてはスタートラインに立ったばかり。これからだと思っています。
――予選を経て、8月7日に決勝をオンラインで実施しました。
木下: 決勝は予選でまとめたレポートを、各チームにプレゼン形式で発表していただきました。決勝は予選の倍となる10人で審査しました。メディカル、S&Cスタッフなどチーム側の人間5人と、技術的な部分を評価できる「Sports Analyst Meetup」のメンバー5人が審査員です。「Sports Analyst Meetup」のメンバーは、私の他に、企業のデータサイエンティスト2人とプロ野球チームのデータサイエンティスト1人、もう1人はエンジニア向けの技術書をつくっている出版社の編集者です。面白かったのは採点がバラけたこと。チーム側の人間としては実用性が高かったり、プレゼンがわかりやすいチームの点数が高くなります。一方、「Sports Analyst Meetup」のメンバーは専門的な部分を高く評価しますからね。その結果、どちらもバランス良く点を取った総合力の高いチームが1位になりました。
――今後に向けての課題は?
木下: 定期的にコンペを開催するイメージで企画書をチームに提出しています。もう第2回のテーマも考えていますが、あとはどういうコンペにするか。優秀なデータサイエンティストを巻き込んでいくには、このコンペ自体を魅力的なものにしなければいけません。主語を“ウチのチーム”だけにしてしまうと、うまくいかなくるなると思っています。中と外のバランスが取れた案を今、模索しているところです。
<木下倖一(きのした・こういち)プロフィール>
1995年10月5日、埼玉県出身。高校でラグビーを始め、慶應義塾大学在学中にNECグリーンロケッツ(現・NECグリーンロケッツ東葛)にアシスタントアナリストとして加わる。卒業後、スーパーラグビーに参戦していた日本チームのサンウルブズのアナリストを担当。19年にはニュージーランドのプロリーグに所属するベイ・オブ・プレンティのヘッドアナリストに起用された。ニュージーランドでの日本人アナリストは当時16年ぶり2人目で、ベイ・オブ・プレンティでは、2部優勝、1部昇格に貢献した。20年10月、NTTコミュニケーションズシャイニングアークス(現NTTコミュニケーションズシャイニングアークス東京ベイ浦安)に加入した。2019年に発足したSports Analyst Meetupの運営メンバーも務めている。
データが取得できませんでした
以下よりダウンロードください。
ご視聴いただくには、「J:COMパーソナルID」または「J:COM ID」にてJ:COMオンデマンドアプリにログインしていただく必要がございます。
※よりかんたんに登録・ご利用いただける「J:COMパーソナルID」でのログインをおすすめしております。