スクラムの強化なくして勝利なし――。これが2014年度、ヤマハ発動機ジュビロを日本一に導いた清宮克幸さん(現・日本ラグビー協会副会長)の持論です。11年2月にヤマハの監督に就任すると、サントリーサンゴリアスの監督時代、コーチとして自らを支えた長谷川慎さん(現・ヤマハハイパフォーマンスコーチ)を招き、スクラムの強化を任せました。清宮さんは長谷川コーチと堀川隆延ヘッドコーチ(現・GM兼監督)を“助さん、角さん”と呼び、堅い守備と強固なセットプレーが武器のヤマハスタイルを築き上げました。
「スクラムとラインアウトがあるからラグビー」。清宮さんのラグビー哲学はシンプルです。
「そこを軽視し、やれタックルの回数がどうだ、ボールを触る回数が大事だと言ってもあまり意味がないと思うんです。相撲に例えて言えばスクラムでもみ合う時間は仕切りです。仕切りのない相撲なんて考えただけでも味気がないでしょう」
とりわけスクラムへのこだわりは非常に強いものがありました。
「トライを許さない。失点が少ない。要するに自分たちの方がボールを持っている時間が長いからなんですよ。では、なぜ長くボールを持てるのか。それはスクラムが強いからなんですよ。この年は特にそうでした。スクラムを組んでいる時にペナルティーをとると、フルバックの五郎丸(歩)がロングキックを蹴り、マイボールラインアウトでゲームが再開される。つまり構造的にボールを長く支配し続けられるんです」
清宮さんの言う「この年」とは14年度のシーズンを指します。4年かけて築き上げたヤマハスタイルが実を結んだのは、チーム初の日本一を手にした日本選手権でした。
2015年2月28日、東京・秩父宮ラグビー場。52回目となる日本選手権ファイナルは、初進出のヤマハと、日本一6度を誇るサントリーの対戦となりました。ヤマハの監督に就任して4年目となる清宮さんが古巣相手に、どんな勝負を挑むのか――。そこに注目が集まりました。
トップリーグ(TL)プレーオフ決勝でパナソニックワイルドナイツに敗れていたヤマハは、準決勝でリーグ戦3位の東芝ブレイブルーパスをノートライに抑え、21対9で決勝へコマを進めました。対するサントリーはリーグ戦5位に終わり、ワイルドカードから勝ち上がってきました。
選手はどのような思いで決勝を迎えたのでしょうか。この試合、フッカーでスタメン出場を果たした日野剛志選手はこう振り返ります。
「このシーズンはTL決勝でパナソニック相手に、自分たちの強みであるスクラム、モールを生かし切れなかった。“次こそは”と臨んだ日本選手権決勝だったので、ファーストスクラムは絶対に負けたくなかった。これは(コーチの長谷川)慎さんにも言われたのですが、“ファーストスクラムで仕掛けるぞ”と。プロップの山本幸輝と田村義和さん(前サンウルブズコーチ)とも確認していました」
勝負のカギを握るファーストスクラムは前半2分にやってきました。サントリーが自陣でノックオンの反則を犯し、ヤマハボールのスクラムに。ところが、アーリープッシュの反則で相手にボールを渡してしまいました。
それでも日野選手は「その試合の主導権を掴めた」と言い、こう続けます。
「守りのスクラムではなく攻めのスクラムが組めた。だから反則をとられても僕たちは全然OKでした。それ以上に掴んだものの方が大きかった。“この日、絶対いけるぞ”という思いがフォワードの8人に生まれました。ヤマハにとってスクラムで主導権を握れるということは、他のプレーにも良い影響をもたらすんです」
その言葉通り、ヤマハは7分に先制すると、五郎丸選手の正確なキックで得点を重ねました。サントリーにPGで3点を返されたものの、26分にはウイング中園真司選手(現・日野レッドドルフィンズ)がトライをあげ、15対3で試合を折り返しました。
地味ながらもヤマハの底力が光ったのは後半10分過ぎの時間帯です。五郎丸選手のタックルが危険と判定され、10分間の一時退場に。数的不利な状況をヤマハは粘り強いディフェンスで凌ぎ切りました。
ヤマハのスクラムは最後まで鉄壁でした。39分、サントリーがノックオンを犯し、ヤマハボールのスクラムに。サックスブルーの塊はサントリーのスクラムを一方的に押し込みました。これがコラプシングの反則を誘い、最後は五郎丸選手がボールをタッチライン外に蹴り出し、ノーサイド。15対3でサントリーに完勝しました。
日野選手は後半39分にベンチに下がるまで、スクラムで体を張り続けました。
「このシーズンはセットプレーと粘り強いディフェンスの勝利でした。日本選手権はノートライに抑えて勝てた。それは誰のおかげではなく、全員が一生懸命タックルし、セットプレーを組んだからです」
ヤマハスタイルとは何か――。その全ての答えが凝縮された一戦でした。
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