ラグビーのトップリーグは20日にリーグ戦を終えました。レッドカンファレンス、ホワイトカンファレンスの各組上位4チームが12月1日からの決勝トーナメントに臨みます。
レッドカンファレンスからは初代王者の神戸製鋼コベルコスティーラーズ、昨季2冠のサントリーサンゴリアス、名将ジェイク・ホワイト率いるトヨタ自動車ヴェルブリッツ、初の4強入りを目指すNTTコミュニケーションズシャイニングアークス。ホワイトカンファレンスからは清宮克幸監督率いるヤマハ発動機ジュビロ、3季ぶりの王座奪還に燃えるパナソニック ワイルドナイツ、日本代表55キャップのスタンドオフ/センター立川理道を擁するクボタスピアーズ、ウイングのロトアヘア・アマナキ大洋の突破力に活路を見出したいリコーブラックラムズが出場します。
ラグビーシーズンのクライマックスに向け、最も注目したいのが今季から神戸製鋼に入団した世界的なスーパースター、ダン・カーター選手です。言うまでもなくカーター選手はラグビー界の“生ける伝説”です。オールブラックス(ラグビーニュージーランド代表)でのキャップ数は112を誇ります。主にスタンドオフとして活躍し、2011年、15年W杯の連覇に貢献しました。世界最優秀選手賞には3度も輝いています。
現在36歳。代表からは引退しましたが、“黄金の左足”は健在です。トップリーグでもキック成功率は86.2%を記録し、ベストキッカー賞に輝きました。
カーター選手のプレーは日本デビューとなった9月14日の第3節サントリー戦からして衝撃的でした。平日、しかも雨予報にも関わらず、カーター選手見たさに前売り指定席は完売しました。秩父宮ラグビー場には1万7000人を超える観客が詰めかけました。彼の一挙手一投足に注目が集まり、そのワンプレーワンプレーに歓声が湧きました。
最初の見せ場は前半4分でした。先制トライで得たコンバージョンキックはゴールまで約25メートルの距離。角度は正面やや左で、キックの妨げになるような風もありませんでした。しかし、“黄金の左足”から放たれた楕円球は右のポストをわずかに外しました。
「通常だとそれで自信をなくす選手もいるかもしれませんが、自分の経験から“次の仕事に集中しよう”と思っていました」
その言葉通り、試合途中から降り出した雨をものともせず、後半は3本のキックを全て成功させました。終わってみれば初トライを含めて21得点。この日のマン・オブ・ザ・マッチに選ばれました。
カーター選手のプレーを見ていると、キック、パス、ラン。その全てが“神業”に映ります。彼の判断どれもが最適解であり、彼が選択するプレーのどれもが最善手なのです。
「キック、パス、ランという全ての判断力が素晴らしいなと思います」
サントリー沢木敬介監督はこう絶賛した後、日本における“ダン・カーター効果”についても言及しました。
「本当に素晴らしい教科書が日本にやって来た。ラグビーをやっているちびっ子もそうですけど、(ラグビーをやっている人)全員が見本になるプレーをたくさん見せてくれると思う。日本にとってはものすごくプラスです」
ではなぜカーター選手は、難しいプレーをいとも簡単にやってのけることができるのでしょう。その理由の一つと思われるのが姿勢の良さです。背筋がピンと伸び、歩き方に気品があるのです。遠くからでも、彼が司令塔であることがすぐにわかります。
スクラムハーフ日和佐篤選手はカーター選手のプレーの印象について、こう語っていました。
「真っすぐ向いてパスできるところはスタンドオフに限らず、どのポジションの選手も見習うべきポイントだと思います。DC(ダン・カーター)は細かいスキルがすごく上手い。基本的なことをしっかり忠実にやるというのが大事なんだなと改めて感じました」
敵方のスクラムハーフ流大選手からも話を聞きました。
「オプションが常に2、3個あるので、こちらも迷いました。キックもあれば、身体を正面に向けてパスをする技術もありますから。少しでもギャップがあればそこを突いて走ってきました」
と言っても36歳になったカーター選手にスプリンター顔負けのスピードがあるわけではありません。視野が広く、ゲームを読む力が抜きん出ているため、相手はついて行くのが困難なのです。スピードはスピードでも各局面におけるディシジョン・スピードの勝利が、プレーを華麗に見せているように思われます。
さらに見習うべきは、オフ・ザ・ピッチでの「姿勢」です。チームメイトのフランカー橋本大輝選手は、「ダン・カーターはスポーツ選手として尊敬するべきところがとても多い」と敬意を表した上で、こう続けます。「私生活から練習に取り組む姿勢まで含め、24時間プロ意識が高い選手です。グラウンドでいいプレーをするには、どうすべきか。ラグビーに取り組む姿勢をみんなに教え、チームを引っ張ってくれる。その影響はチーム全体に浸透しつつあります」
サントリー戦後の共同記者会見では、ジェントルマンらしく、「今日は多くの記者の方に来ていただいてうれしいです」とまず感謝の言葉を口にしました。甘いマスクに加えてナイスガイ。ピッチの外でも彼は教科書なのです。平成最後の冬、心ゆくまでレジェンドのプレーを堪能したいものです。
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