リーグワン2シーズン目の今季、王座に就いたのはダークホースのクボタスピアーズ船橋・東京ベイ(スピアーズ)でした。5月20日、東京・国立競技場でのプレーオフトーナメント決勝。スピアーズは後半に入って、いったん埼玉パナソニックワイルドナイツ(ワイルドナイツ)に逆転を許したものの再逆転に成功し、17対15のスコアで歓喜のノーサイドを迎えました。
12対15と逆転されていた後半29分、スピアーズにビッグプレーが生まれました。スクラムハーフ藤原忍選手からボールを受けたセンター立川理道選手が右足を振り抜きます。次の瞬間、定規ではかったかのような正確なキックパスが左サイドのウイング木田晴斗選手の腕に、すっぽりとおさまりました。距離にして約35メートル。野球で言えば“どストライク”です。
蹴る直前、立川選手は「パスを投げるか、自分でキャリーするか」で一瞬、迷ったそうです。その時、視界に木田選手が入ってきました。「“オレにくれ”とオーラを出していた」。トライゲッターの本能が、ボールを呼び込んだのでしょう。
そう言えばこんな話があります。
「彼を初めて観たのは立命館大学1年生の時。たしか同志社大学との新人戦でした。私は同志社のOBなので、同志社寄りに観ていましたが、いつの間にか立命館の11番しか目で追っていなかった。後から聞いたら、有名な選手で、それが木田だと知りました。当時から彼は“オレによこせ”オーラがすごかった。こういうウイングはあまり日本人にはいないタイプですね」(前川泰慶チームディレクター)
木田選手は春先から「僕は今年のW杯に出るつもりでいます」とはっきり目標を口にしていました。それには日本代表ジェイミー・ジョセフヘッドコーチ(HC)の御前でアピールするのが一番です。この逆転トライが目に留まったのか4日後、晴れて木田選手は代表メンバーに初選出されました。
試合に戻りましょう。この日のスピアーズは実にキックを有効に使いました。裏のスペースをグラバーキック(グラウンダーのキック)や、チップキック(小さく浮かしたキック)で狙ったかと思えば、ハイパント(高く蹴り上げるキック)で競り合いに持ち込み、相手にプレッシャーをかけることもありました。
逆転トライの場面も、藤原選手が蹴り上げたボックスキックが起点になりました。そのボールをナンバーエイトのファウルア・マキシ選手がワイルドナイツのフルバック野口竜司選手と競り合い、こぼれたボールをウイング根塚洸雅選手が拾って前進。そこから藤原選手、立川選手とつなぎ、木田選手がフィニッシュしました。
敗れたとはいえ、ワイルドナイツはさすがです。後半に強いのがこのチームの持ち味ですが、後半18分、ラインアウトからのモールで押し込み、8分前に投入されたフッカー堀江翔太選手がトライ。さらに25分、ウイング長田智希選手がインゴール右に飛び込んだ時には、このまま押し切るかと思いました。スコアはワイルドナイツの15対12。
この時点で、流れは完全にワイルドナイツにありましたが、スピアーズの選手たちは冷静でした。
逆転トライを奪われた直後、インゴール内の円陣で立川選手は、「戦術は変えない」と訴えたといいます。「(逆転された際)まだ時間はあるということと、ここで無理をして戦術を変えるのは逆に相手の思うツボだと訴えた。点差ではなく時間をしっかり見ながらうまくゲームコントロールすることができた」
以下はフラン・ルディケHCの立川評です。
「彼の強みは、リーダーとしてメッセージを冷静に伝えられるところ。実際に試合が始まったら、コーチ陣は判断をグラウンドの選手たちに委ねることになります。そのプロセスの部分を彼はしっかりとやってくれました」
立川選手がスピアーズに入ったのは2012年です。当時、チームは2部にあたるトップイーストに降格したばかり。入団の理由は、こうでした。
「兄(直道選手)も所属していましたし、これからのチームという印象がありました。完成度の高いトップリーグの強豪チームよりも、これからどんどん強くなっていくチームに入りたいと思っていた」
質問はMVPにも及びました。「これ(MVP受賞)に関してはでき過ぎ。選んでくれて感謝しています。フランHCと一緒にやってきて苦しいシーズンもありました。今年の勝利で自分たちがやってきたことは間違いではなかった、と証明できました。さらにいい文化をつくり上げていって、来季も勝てるようにしたい」
曇り空の下、トロフィーを掲げるミスタースピアーズに向けられたオレンジアーミーからの手拍子は、しばらく鳴り止みませんでした。
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