1月19日、快晴の東京・秩父宮で行われた栗田工業ウォーターガッシュ対近鉄ライナーズ戦は、2部相当のトップチャレンジリーグの試合であるにも関わらず1万4599人もの観客が詰めかけました。“トモさん”の愛称で親しまれている日本代表ロックのトンプソン・ルーク選手(近鉄)のラストマッチだったからです。
ピッチに入ってきた選手たちを見て、「あれっ!?」と思った方は少なくなかったはずです。このゲームのホームチームは栗田工業。本来ならホームチームがファーストジャージーを着るのですが、栗田工業が着ていたのはグレーと水色のセカンドジャージー。翻って近鉄の選手たちは紺とエンジを基調としたファーストジャージー。ジャパンで4度のW杯に出場し、長きに渡って日本ラグビーに貢献してきたトンプソン選手に敬意を表したというのです。
粋なはからいはプレーでもありました。後半32分、トライ後のコンバージョンキックのキッカーにトンプソン選手が指名されたのです。ゲームキャプテンを務めたロックのマイケル・ストーバーグ選手(オーストラリア出身)は、「ラグビーには引退する選手にゴールキックのチャンスを与えるという伝統がある」と話していました。
試合後の記者会見、「今日は特別な日。チームが勝って優勝した。それが一番大事」と笑顔で答えるトンプソン選手が印象的でした。
スタンドには、かつての“戦友の姿がありました。そのひとりが「トモ」「キンちゃん」と呼び合う仲の東芝ブレイブルーパスのロック大野均選手です。トモとキンちゃんは2007年フランス大会、11年ニュージーランド、15年イングランドと3大会連続でW杯を戦い抜きました。
ともにポジションはロック。キンちゃんは「トモはいつでもハードワークをしてくれる」と高く評していました。
トンプソン選手と言えば、W杯イングランド大会での南アフリカ戦について触れないわけにはいかないでしょう。
29対32で迎えた終了間際、ジャパンは敵陣深く攻め込み、ペナルティーを得ました。そこでPGではなくスクラムを選択――。つまり同点ではなく、一気に逆転を狙うとの意思表示です。これを演出したのがトンプソン選手でした。
後半13分からピッチに入っていたロックの真壁伸弥さんは、その場面を、こう振り返ります。
「スクラムの時にトンプソンさんが“歴史変えるのダレ?”と発言したんですよ。それにタイトファイブ(プロップ、フッカー、ロックのFW5人)全員が共鳴して、“俺らだ”と応えたんです。“日本のラグビーを変えたい”との気持ちをずっと持っていたので、その言葉はすごく響きました。“ここでやらなかったら、何も変わらない!”という強い思いがありましたから」
イングランド大会後、一度はジャパンからの引退を表明したトンプソン選手ですが、2017年6月のアイルランド戦で“期間限定”の復帰を果たしました。同じポジションにケガ人が相次いだことが理由でした。そのひとりが大野選手でした。
「17年のアイルランド戦直前にケガをしてしまった僕の代わりに声が掛かったのがトモでした。ケガで落ち込んでいた僕に彼は連絡をくれ、“キンちゃんの代わりだから頑張るよ”と言ってくれたんです。ジンときましたね」
この時、トンプソン選手、36歳。年齢を感じさせないパフォーマンスを目の当たりにしたジェイミー・ジョセフヘッドコーチ(HC)は、その時点で、W杯日本大会での起用も視野に入れていたようです。以下は19年6月、宮崎合宿に参加するメンバー発表の際のジェイミーHCのコメントです。
「彼の経験、不屈の精神を非常に評価しています。W杯で成功してきたチームに一貫して言えることは、経験者、ベテランが入っていること。彼は周りの選手たちからも非常にリスペクトされています。そして代表の選手として誇り高き熱い情熱を持った選手だと思います。彼が今、見せているパフォーマンスをこのまま継続してくれれば、非常にチームにとって貴重な選手になると確信しています」
ベスト8進出を果たしたW杯日本大会、トンプソン選手は5試合中4試合に出場し、躍進の原動力となりました。身体を張ってのジャパンへの献身は、さながら「あしながおじさん」そのものでした。引退後は母国ニュージーランドに戻り、牧場を営む予定です。「トモさんに幸あれ」とエールを送りたい気分です。
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