リーグワン1部の埼玉パナソニックワイルドナイツは18日、花園近鉄ライナーズを41対6で破り、リーグ戦を8連勝の首位で折り返しました。前身のトップリーグ(TL)と合わせて公式戦100キャップを達成したプロップ稲垣啓太選手は試合後、両チームから祝福され、貴子夫人から花束を受け取りました。
“笑わない男”として、すっかりお茶の間でも有名になった稲垣選手のここまでの道のりを簡単に振り返っておきましょう。2013年に関東学院大学から入団した身長186センチ、体重116キロの偉丈夫は現在32歳。ベテランの域に達した今も、プロップとして豊富な運動量と高いワークレートを誇ります。ルーキーシーズンからリーグ戦、プレーオフ、日本選手権の全試合に出場し、TL&日本選手権の2冠に貢献、新人賞とベストフィフティーンを獲得しました。ベストフィフティーンはそのシーズンから昨季まで8季連続受賞中(19-20シーズンは中止のため除く)です。
18日に本拠地の埼玉・熊谷ラグビー場で行われたライナーズ戦でも、背番号1を付け、後半9分に交代するまで攻守に安定したプレーでチームの勝利に貢献しました。
節目の試合を戦い終えた後、会見で稲垣選手はひとりの先輩の名を口にしました。それはゲームキャプテンのフッカー堀江翔太選手です。
「一緒に試合に出ることができ、すごく感慨深いなと思います。今日は堀江さんのプレーを見ながら、『堀江さんならきっとここにボールを放ってくれるだろう』とか、そういったことも思いながらプレーしていました。堀江さんは僕だけではなく、パナソニックだけでもなく、日本ラグビー界全員がお手本にしている選手。尊敬できる人と一緒に今日プレーできてうれしかったし、その試合が自分にとって100試合目だったというのは本当に幸運でした」
後半2分、堀江選手のパスから稲垣選手が突破するシーンが見られました。それは長年、ワイルドナイツ、ジャパンでプレーしてきた2人が見せる“阿吽の呼吸”でした。
一方、堀江選手は稲垣選手の言葉を受けて「ガッキー(稲垣選手の愛称)の言葉を一語一句切らずに(紙面に)載せてください」と笑いを誘い、こう続けました。
「ガッキーとの思い出は初めて一緒にプレーしたときのこと。前3人(フロントロー)の中でも僕が一番走れる自信があったんですが、チェイスやディフェンスといった場面で常に僕の目の前にガッキーがいた。僕が行かなければアカンところにいるし、来て欲しいと思えば必ずそこにいる。『すげぇヤツだな』とずっと思っていました」
期待する後輩だからこそ、あえて厳しく接したこともあります。
「入団してすぐの若手選手に厳しくすることはないのですが、唯一厳しく接したのがガッキー。彼はもう絶対に成長しなければならない選手だと思っていましたから。ガッキーが試合中にイージーなミスをしたときにも『お前は絶対にそんなミスをするな』と厳しく言った記憶があります」
稲垣選手を称賛するのは身内だけではありません。対戦相手の水間良武ヘッドコーチ(HC)からもメッセージが届きました。水間HCは10-11シーズンから9シーズン、ワイルドナイツでアシスタントコーチを務め、稲垣選手をルーキーシーズンから知る人物です。
「彼は1年目から意識が高く、食事のことまで気を遣っていた。どうやったら良くなるか、常に自分が向上するために取り組んでいました。それが約10年で100キャップという数字に到達できた理由だと思います。それに彼はタフで、あるシーズンのプレーオフで頭を切って血を出しながら、本人は『戻る』と。出たり入ったりを繰り返した末にドクターストップ。『感覚がないです』と言いながらプレーを続けていました」
水間HCが言及した試合は、15-16シーズンのTLプレーオフ準決勝の神戸製鋼コベルコスティーラーズ(現・コベルコ神戸スティーラーズ)戦です。前半37分に相手選手のヒジが額を直撃し、右目上部から出血。治療のため、いったん退き、ハーフタイム後に復帰。4分後に再び、出血で一時交替。またグラウンドに戻り、後半7分から20分までプレーしました。計40針も縫った稲垣選手ですが、8日後の決勝戦はヘッドキャップを装着せずにフル出場するなど“鉄人”ぶりを遺憾なく発揮しました。
そんな稲垣選手にワイルドナイツのロビー・ディーンズ監督は全幅の信頼を置きます。
「彼の強みはプレーが一貫していること。変わらないことが強みです。常にプレーしているのが当たり前のように感じてしまいますが、私たちにとっては当たり前の存在じゃない」
“笑わない男”から“変わらない男”へ――。さらに進化を続ける32歳です。
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