ニュージーランド代表に、後半39分までは1トライで逆転できる31対35でした。奇跡こそ起こせませんでしたが、東京・国立競技場に詰め掛けた6万5188人の大観衆は、ノーサイドのホイッスルが鳴り終わってからも、しばらく席を立とうとしませんでした。
前半33分の時点でジャパンは3トライ3ゴールを奪われ、3対21。今回も完敗かと思われました。
しかし、10月29日のジャパンは違いました。37分、スタンドオフの山沢拓也選手が元サッカー少年のスキルを生かし、足技でボールを運びます。インゴール右隅にトライ。自らコンバージョンキックも決め10対21。その3分後、センターのディラン・ライリー選手のオフロードパスを受けたスクラムハーフ流大選手が右拳を突き上げながらインゴール左中間に飛び込みます。コンバージョンキックも成功し、17対21。逆転への期待を後半につなぎます。
ここでこれまでのジャパン対ニュージーランド代表の対戦成績を紹介しましょう。
1987年10月25日 花園 0対74●
1987年11月1日 国立 4対106●
1995年6月4日 ブルームフォンテーン 17対145● ※W杯
2011年11月3日 ハミルトン 7対83● ※W杯
2013年11月2日 秩父宮 6対54●
2018年11月3日 味スタ 31対69●
わけても95年W杯南アフリカ大会での大敗は今でも日本ラグビーの“黒歴史”と言われています。この時のメンバーである吉田義人さんは、こう語っていました。
「あれは屈辱の記憶です。145点も取られ、17点しか取れなかった。ラグビー界のコアファンたちが愛想を尽かした。自信を取り戻すには時間がかかりました。その後は代表の価値も下がっていき、それにより多くの選手たちが企業や自分のチームを優先することになりました」
後半開始早々、オールブラックスに1トライ1ゴールを奪われ、11点差をつけられましたが、ジャパンは食らいつきます。16分、2メートル1センチ長身ロックのワーナー・ディアンズ選手がキックチャージからトライ。スタンドオフ李承信選手がコンバージョンキックを成功し、これで24対28。
ニュージーランド出身のディアンズ選手は、高校卒業後にトップリーグ(当時)の東芝ブレイブルーパス(現・東芝ブレイブルーパス東京)に入団した20歳、日本待望の大型ロックがついに本領を発揮しました。
24対35の26分、オールブラックスのロック、ブロディー・レタリック選手にレッドカードが出され、ジャパンは数的優位に立ちます。しかし、さすがはW杯優勝3回のオールブラックスです。好機を生かせず敵陣でミスやペナルティーを重ねたのはジャパンの方でした。
結局、31対38でノーサイド。キャプテンのフッカー坂手淳史選手は「勝てると思ってグラウンドに立ったが、最後は届かなかった」と言って唇を噛みました。
大健闘の理由のひとつにあげられるのが、試合前のハカへの対応です。ジャパンの戦士たちハーフウェイラインに横一列に並び、視線を逸らすことなく恒例の“儀式”を見ていました。
もちろん、ただ見ていたのではありません。ジェイミー・ジョセフヘッドコーチの指示で隊列の後方を見ていたというのです。
試合後、ニュージーランドでプレー経験のあるフランカー姫野和樹選手が明かしました。
「(陣形の)前方の選手はマオリの(流れを汲む)方たちでハカが上手い。あまり上手くない人は後ろにいく、と」
“ハカ対策”と言えば記憶に新しいのが、2019年W杯日本大会準決勝のニュージーランド代表対イングランド代表戦です。イングランドはハカをV字の陣形で迎えました。試合後、イングランドのフランカー、サム・アンダーヒル選手は「ニュージーランドに対し、“我々は戦う準備ができているぞ”と示したかった」と語りました。この“迎撃策”が功を奏したのか、イングランドはニュージーランドを19対7で破りました。オールブラックスとの勝負は、ハカの時点で、既に始まっているのです。
さてこの後、ジャパンはヨーロッパに渡り、11月12日(現地時間)にイングランド代表、20日にフランス代表と戦います。今年のテストマッチは残り2試合。姫野選手は「勝ちにこだわってプレーします」と語気を強めていました。実りの秋を実感する欧州遠征となりそうです。
データが取得できませんでした
以下よりダウンロードください。
ご視聴いただくには、「J:COMパーソナルID」または「J:COM ID」にてJ:COMオンデマンドアプリにログインしていただく必要がございます。
※よりかんたんに登録・ご利用いただける「J:COMパーソナルID」でのログインをおすすめしております。