W杯シーズンのスーパーラグビーが開幕しました。日本チームのヒト・コミュニケーションズ サンウルブズは16日、シンガポールで開幕戦を行い、南アフリカのシャークスに10対45で敗れました。スーパーラグビーは6月まで全16戦が予定されています。全15チーム中上位8チームが決勝ラウンドに進みます。
開幕戦の指揮はスコット・ハンセンAC(アシスタントコーチ)に譲りましたが、サンウルブズのHCはジャパンのACを務めるトニー・ブラウンさんです。昨年10月のHC就任会見では「イノベーティブなラグビーをする」と抱負を述べました。「イノベーティブなラグビー」とはどういうことでしょう。ブラウンさんの説明はこうです。
「素早く、スキルフルにボールを動かす。ファンの方に楽しんでもらい、かつプレーヤーたちが楽しめることが大事。そして、試合に勝つこと。これらがポイントだと思っています」
ブラウンさんは現役時代、「スキルフル」なスタンドオフとして鳴らしました。ニュージーランド代表18キャップを誇り、日本では2004年から三洋電機(現パナソニック ワイルドナイツ)で7シーズンに渡ってプレーしました。引退後は指導者となり、15年にはジェイミー・ジョセフ HCの右腕としてニュージーランドのハイランダーズをスーパーラグビー優勝に導きました。16年秋からはジャパンのACと兼任で指導に当たっていました。一昨年のスーパーラグビー終了後、ハイランダーズからは離れ、昨年からサンウルブズのAC、今年からはHCに就任しました。ジェイミージャパンのキックを多用してスペースを突く戦術は、ブラウンさんの攻撃思想がベースにあります。
<「体の大きなチームは体格差で圧倒してくるから、日本は試合を速いテンポにしたい。そのために攻撃ではスピードを上げ、(キックなどで互いの陣形の乱れた)アンストラクチャーの状態を増やしたい。(パス主体の)攻撃ラグビーとキックを使ったラグビーを組み合わせ、バリエーションのある戦い方もしたい」>(「日本経済新聞電子版」 2017年11月9日)
ジャパンの選手たちは、ブラウンさんの志向するラグビーをどう考えているのでしょう。例えばスクラムハーフの田中史朗選手の意見はこうです。
「付き合いが長いので、ブラウニーの考えはある程度分かりますけど、まだまだです。今でも怒られますし、彼はちょっと次元が違う賢さですから。それはハイランダーズの選手も言っていました」
三洋電機でともにハーフ団を構成し、その後パナソニックやハイランダーズで指導を受けた田中選手の意見だけに説得力があります。
異次元なのは頭脳だけではありません。ブラウンさんは根っからのタフガイです。彼が三洋電機でプレーしていた時期、監督を務めていた飯島均さん(現パナソニック部長)は「あれだけ泥臭いスタンドオフはいなかった」と語っていました。
こんなエピソードがあります。08年10月、ブラウンさんは試合中に受けたタックルが原因で入院生活を余儀なくされました。診断は外傷性膵炎でした。
飯島さんは振り返ります。「彼は痛みに強い男です。それでも外傷性膵炎の時は、本当にどうなることかと心配しました。外傷性膵炎は交通事故でまれに起きるもので、外からの激しい圧力によって膵臓から消化液が漏れ出して、膵臓自体や臓器を溶かしてしまう。彼は最初、“腹が痛い”と言っていたのですが、どうも様子がおかしいということで病院に行くと、胃、胆のう、十二指腸、腸の一部と膵臓を取って洗浄しなくてはいけない状況でした。夜中に緊急手術をしましたが、ドクターからは“生きているほうが不思議だ”と驚かれました。普通の人間ならショック死する状態だったそうです」
さらに飯島さんは続けました。
「当初、ドクターからは“ラグビーはもちろん、完治するのも難しい”と言われていました。食事を摂れば膵臓から消化液が漏れ出すので何も食べられない。腸に管をつけて、直接栄養を入れていました。手術から2カ月間で一気に12、13キロ痩せましたね。ところが、その3カ月後、トップリーグのプレーオフ決勝には、ドクターに“オレは出る”と告げ、ドクターストップを振り切ってピッチに立ったんです。彼は生きるか死ぬかという手術を受け、目が覚めた瞬間、“あぁ、ラグビーの試合をした夢を見た”と言ったんです。ラグビーをやるために生まれてきたような男なんです」
奇跡的にピッチに戻ってきたブラウンさんは、日本選手権では主にリザーブとして活躍しました。サントリーサンゴリアスとの決勝では、後半14分、3対9とリードされた場面で登場、劣勢を挽回するプレーをいくつも披露しました。 後半25分には自陣でこぼれ球を奪うやいなや、素早く展開してビッグゲインに繋げたのです。結果、三洋電機は24対16で勝利し、日本選手権連覇を達成しました。ブラウンさんの執念が光った試合でした。
そのブラウンさん、サンウルブズでの目標を「ひとつひとつの試合を勝ちに行く」ことに置いています。参入1年目は1勝、2年目は2勝、3年目は3勝とひとつずつ白星を上積みしているサンウルブズ。今季はW杯イヤーだけに大きな飛躍が望まれます。「普通、人間は悪い状況に陥ると落ち込みますが、彼の場合は逆にアドレナリンが出るみたいなんです」とは飯島さんの弁です。どんな采配を見せてくれるのか、大いに楽しみです。
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