
2024-25シーズンのクボタスピアーズ船橋・東京ベイは、惜しくも決勝で東芝ブレイブルーパス東京に13対18で敗れましたが、内容は健闘に値するものでした。ところでスポーツクラブには競技性、事業性、社会性の3つが要求されます。今年12月に開幕する新シーズンに向け、前川泰慶ゼネラルマネジャー(GM)に話を聞きました。
――GM1年目を振り返ってください。
前川泰慶: あっという間の1年でした。優勝できなかったので、点数を付けるならば60点くらいですかね。これまで前GMの石川(充)さんが進められてきたことを継承することに注力しました。GMに就き、いろいろな人とお会いする機会が増えました。これまでの私の役割はチーム強化が中心だったので、ここ5年以内のことばかりを考えていました。しかしGMになると5年、10年、15年先を見据えたチームづくりを考えなければいけない。
――主なホストスタジアムとして使用しているスピアーズえどりくフィールドは収容人数5000。えどりくでホストゲームを開催した場合、その8割である4000人が入ったとしても1試合で約1500万円の赤字になると、前川さんは話しています。
前川: 私としてはありのままを伝えただけでしたが、記事の反響は大きかった。実際、大型ビジョンを設置するだけで約500万円の出費がかかります。毎回、赤字を生む現状をどうにかしないといけません。
<えどりくは、東京都江戸川区にある区立の陸上競技場。スピアーズは2019年6月から24連勝中。2023年3月にスピアーズを運営するクボタが、ネーミングライツパートナーに選定され、「スピアーズえどりくフィールド」と命名した。契約期間は23年4月1日から26年3月31日までの3年間。座席のない芝生エリアを除けば、常設の観客席は5000に満たない。24-25シーズンはホストゲーム9試合中6試合を開催した。>
――8月20日、NECグリーンロケッツ東葛が25-26シーズン限りでのチーム譲渡検討を発表しました。グリーンロケッツは日本選手権3度優勝の古豪です。親会社のNECは業績好調のため、大きなニュースとなりました。
前川: 私もNECのニュースには驚きました。ただ、これは決して“対岸の火事”ではありません。我々はチーム戦績だけでなく、事業としての数字も追い求めていく必要があると、改めて感じました。
――リーグワンの東海林一専務理事は「ラグビーの価値、収益性を高めることがポイント」と話していました。親会社におけるラグビー部の価値向上を図る必要がありますね。
前川: その通りです。もっと“見える化”しないといけません。ラグビーは数字に表れない価値が大きい。これからは、その価値をいかに可視化するかを考えないといけない。
――ホストスタジアムの改修はその一歩だと?
前川: えどりくを改修することが、すべてのスタートラインだと思っています。この会場を1万5000人が入るスタジアムにして、人の集まる場所にしたい。クロスボーダーマッチや国際大会も開催したいと思っています。
――えどりくを増改築するためには、所有している東京都江戸川区の協力が必須です。
前川: そうですね。ただ、ラグビーのためだけに改修するというのは難しい。親会社のクボタの事業と絡めていくこともひとつの手です。たとえば農業体験施設をスタジアムに設置することで、地域の学校の遠足に利用していただく。病院や特別養護老人ホームも近くにありますので、リハビリ施設としてえどりくを使っていただくこともあっていい。ここが、老若男女問わず人が集まれる場所になれば、江戸川区のまちづくりにも貢献できるはず。会社も食料・水・環境の社会課題にトータルで取り組んでいます。それらを使ってまちづくりにつなげていくことは、会社の想いとリンクします。
――スタジアムやアリーナは単なる競技会場ではなく、災害時の避難所になる側面があります。たとえば日産スタジアム(神奈川県横浜市)は“高床式”の構造になっており、堤防を越えた鶴見川の水を収容することができ、19年W杯日本大会の際には減災機能を果たしていました。
前川: 防災という観点で言えば、江戸川区の大規模水害ハザードマップで、ほぼ全域がオレンジ、ピンク、赤色(大規模水害時、オレンジが1階、ピンクが2階、赤が3、4階までの家屋が浸水)に示されていますが、えどりく一帯は地域防災拠点(水害発生時に浸水しない場所)に設定されています。他の地区より少し高い位置にあり、防災の避難場所として機能できる。その観点からも観客席増設を含め、スタジアムの設備を整えることは、意義のあることだと思います。
――試合日以外にも、えどりくでイベントを開催することで、人が集まる場所としてアピールできます。
前川: ラグビーはコンテンツのひとつに過ぎません。えどりくではアメフトやラクロス、サッカーの公式戦が開催されています。より良いスタジアムになることは、ラグビー界みならずスポーツ界にメリットがあるということを発信していきたいと考えています。
――増改築するには5000人以上の集客力が要求されます。そのために模索していることは?
前川: 最寄りの東京メトロ西葛西駅から、えどりくまでの動線づくりが大事だと思っています。徒歩で約15分。その道のりを、ただ歩かせるでのはなく、チームカラーのオレンジの装飾を増やし、“オレンジロード”をつくる。さらにはスタンプラリーを実施するなどして、会場までのワクワク感を増幅させるような取り組みを考えています。理想は、気が付いたらスタジアムに着いていることですね。
<前川泰慶(まえかわ・ひろのり)プロフィール>
1985年6月3日、奈良県出身。現役時代のポジションはロック。小学1年でラグビーを始める。同志社香里高、同志社大を経て2008年、クボタに入社。クボタスピアーズ(現・クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)で8シーズンプレーした。現役引退後、広報・普及、採用担当、チームマネージャーを歴任。採用担当としてはスピアーズのリーグワン初優勝に貢献した根塚洸雅、木田晴斗や藤原忍などの獲得に携わった。24年からはゼネラルマネジャーに就き、スピアーズのチーム強化、運営に力を注いでいる。
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