昨年秋に行われたW杯日本大会でベスト8進出を果たしたジェイミー・ジャパン。快挙の要因として「サンウルブズでの経験」をあげる選手、関係者は少なくありませんでした。スーパーラグビー(SR)での感動の初勝利を振り返りましょう。
サンウルブズはジャパンの強化を目的に2015年に結成されたプロチームです。SRには16年から5シーズン参戦しました。
しかし、その船出は順風満帆ではありませんでした。参加した元日本代表の大野均さんはこう述べていました。
<最初の時点で僕にオファーは届きませんでした。しかし、他の選手がなかなかサインをしなかったので、回り回って僕にオファーが来たのだと思います。「人が集まらないとサンウルブズ自体が消滅する」という話も聞いていました。もし僕が断ってスーパーラグビー参戦が消滅したら、日本ラグビーに申し訳ない。それがサインをした決め手でした>(自著『日本代表に捧ぐ』廣済堂出版)
SRとはニュージーランド、オーストラリア、南アフリカ、アルゼンチンの4カ国のプロクラブが参加する世界最高峰のプロリーグです。
サンウルブズの初戦は、W杯イングランド大会翌年の2月27日でした。ホームとなる東京・秩父宮ラグビー場で行われ、13対26で南アフリカのライオンズに敗れました。その後も連敗が続き、4月からの南アフリカ遠征は3戦全敗。開幕からの連敗は7にまで伸びてしまいました。
遠征3試合目の16日(現地時間)のチーターズ(南アフリカ)戦の前には、死傷者約3000人という大きな被害をもたらした熊本地震が発生しました。サンウルブズのメンバーは「チーターズに勝つことで日本にエールを届けたかった」(大野さん)と奮闘しましたが、結果は92点と大量失点を喫しての惨敗(17対92)でした。
開幕から約2カ月。ついに初勝利の日がやってきました。4月23日、秩父宮で行われたアルゼンチンのジャガーズ(現表記はハグアレス)戦です。スタンドには初勝利を願う観客が1万4940人も集まりました。トップリーグの歴代最多入場者数を記録した15-16シーズンの1開催平均は6470人ですから、サンウルブズへの期待の大きさが窺えます。
再び大野さん。
<結果が出ていませんでしたから、帰国後、4月23日の秩父宮ラグビー場でのジャガーズ戦は、お客さんが全然来てくれないのではないかという不安が先立ちました。ところが当日の会場には、約1万5000人もの人たちが応援に来てくれた。試合前には、熊本、大分の方々に向けての黙祷もあり、選手たちの心のスイッチは完全にオンになりました>(同前)
とはいえ対戦相手のジャガーズは強敵です。先発メンバーには、フッカーのアグスティン・クレービー選手、スタンドオフのフアン・マルティン・エルナンデス選手ら15年W杯イングランド大会で4位に入ったアルゼンチン代表が11人も顔を揃えました。
試合を振り返りましょう。先制したのは前半5分です。スタンドオフのトゥシ・ピシ選手がペナルティーゴール(PG)を決めました。その後、ジャガーズに連続してトライを許し、逆転されました。21分に一度追い付いたものの、13対18と5点のビハインドでハーフタイムを迎えました。
一時は16対25と引き離されたサンウルブズですが粘りを見せます。後半16分、敵陣左サイドでのマイボールスクラムから右へ展開しました。ボールはピシ選手、センター立川理道選手へと渡り、最後はセンターのデレック・カーペンター選手が抜け出し、インゴール中央に飛び込みました。その後もピシ選手の正確なプレースキックで得点を重ね、29対28で再びリードを奪いました。
初勝利を決定付けたのは、試合終了間際です。39分、敵陣深くでのスクラムはインゴールまで約5メートル。スクラムハーフ日和佐篤選手からパスを受けたピシ選手は中央を突破しました。タックルを受けながらも、左斜め後ろを走る立川選手へオフロードパス。立川選手はゴールポストの間に飛び込みました。その瞬間、観客からこの日一番の歓声が上がりました。
最終スコアは36対28。フッカーでキャプテンの堀江翔太選手は「歴史的な勝利を日本であげられたことを誇りに思います」と胸を張りました。
結局、サンウルブズ初年度の白星はこの試合のみでしたが、堀江選手と立川選手は「この試合がサンウルブズでのベストゲーム」と振り返っています。初恋、初陣、初勝利……。何事も「初」はうれしいものです。
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