4年に1度のラグビーW杯は、夏季オリンピック、サッカーW杯と並ぶ、スポーツにおける世界3大イベントのひとつです。ラグビーW杯日本大会組織委員会はスタジアムの観戦者数を最大180万人、大会開催における経済波及効果を4372億円と予測しています。
日本大会は9月20日から11月2日にかけて約1カ月半の長丁場で行われます。開催都市は北から順に札幌市(札幌ドーム)、釜石市(釜石鵜住居復興スタジアム)、熊谷市(熊谷ラグビー場)、調布市(東京スタジアム)、横浜市(横浜国際総合競技場)、袋井市(小笠山総合運動公園エコパスタジアム)、豊田市(豊田スタジアム)、東大阪市(東大阪市花園ラグビー場)、神戸市(神戸市御崎公園球技場)、福岡市(東平尾公園博多の森球技場)、大分市(大分スポーツ公園総合競技場)、熊本市(熊本県民総合運動公園陸上競技場)の12。
この中で、最も収容人数が少ないのが釜石鵜住居復興スタジアムの1万6020人です。釜石市の人口は約3万5000人に過ぎません。
釜石市は2011年3月11日、東日本大震災により壊滅的な打撃を受けました。死者、行方不明者合わせて1040人(岩手県調べ)。復興計画の目玉として建造されたのがこのスタジアムでした。
「ラグビーを震災からの復興のシンボルに」
市民の熱意が実り、2015年3月、釜石市は国内12会場のひとつに選ばれました。東日本大震災の被災地では唯一の試合会場です。釜石の野田武則市長はこう抱負を述べました。「この挑戦が釜石市のみならず、三陸沿岸地域全体の再生と、子どもたちはじめ地域住民全員の、未来への希望につながっていくものと信じております」
釜石は「鉄と魚とラグビーのまち」として知られています。1880年には官営の製鉄所がこの地に設けられました。1959年には、富士製鐡(現・日本製鉄)釜石製鉄所内にラグビーの実業団チームが誕生しました。後に「北の鉄人」と呼ばれる新日鉄釜石です。獲得した全国タイトルは、歴代最多の26回(日本選手権8回、全日本社会人大会9回、国体9回)。1978年度から1984年度にかけて日本選手権7連覇を達成しました。その伝説のチームは釜石シーウェイブスと名を変え、今も活動を続けています。
栄えある日本選手権7連覇を達成した1985年1月15日の光景は壮観でした。成人の日の国立競技場に6万2000人を超える大観衆が集まり、晴れ着の女性を圧倒するように釜石から持ち込まれた大漁旗が揺れていました。
2012年から6シーズン、釜石シーウェイブスでプレーした元ジャパンのフランカー、ナンバーエイトの伊藤剛臣さんに話を聞きました。神戸製鋼コベルコスティーラーズを退団した伊藤さんが、移籍先を求め、釜石のトライアウトを受けたのは震災から1年が過ぎたころです。
「釜石に着いた時、グラウンドやクラブハウスより先に沿岸部を見に行きました。そこで津波の被害の大きさを実感しました。船もまだ陸に乗り上げたままでしたし、半壊の建物がいっぱいありました。全壊のところもあり、震災の傷跡が至るところに残っていました。近くでおばあさんが海をずっと眺めているんですよ。“この人は家族を亡くしたんだろうなァ”と。それを見た時に“このまちで頑張りたい。いや頑張ろう”と決意しました」
伊藤さんは神戸製鋼に所属していた1995年に阪神大震災を経験しました。それもあって復興への思いは人一倍強かったはずです。
「古巣の神戸製鋼も試合のため釜石に来ていて、釜石の選手たちと一緒にガレキの撤去作業を行いました。釜石での初めての練習試合の相手が神戸製鋼でした。そこにも運命的なものを感じましたね。試合後にはサポーターのおじいさんが“伊藤さん”と僕を呼ぶわけですよ。“伊藤さん、よく釜石に来てくれた。これ食べて頑張ってくれ”と言って渡されたのが、ワカメ1袋。“三陸で獲れた日本で1番美味いワカメだから、これを食べて頑張って”と。その時に釜石に来たこと、そしてまちの人の温かさを実感しました」
伊藤さんは現在ラグビーW杯2019日本大会アンバサダーの他に、釜石シーウェイブスRFCアンバサダーも務めています。
「今の僕にできることは“ラグビーでまちを盛り上げよう”“ラグビーでまちを元気にするんだ”という思いを実現すること。最初は復興もままならない中で、“釜石にW杯が来るなんて無理だろう”と思っていました。それでもまちには招致を諦めない人がいた。その執念がW杯を呼んだんです。だから釜石での試合開催が決まった時、僕はうれしくて日本酒を1升飲み干しましたよ(笑)。(ラグビーの国際統括団体の)ワールドラグビーの人たちは、ラグビーの遺産がある釜石を選び、ラグビーで復興を目指しているまちを応援してくれたんだと。そう思うと、うれしくて、うれしくて……」
釜石ではフィジー対ウルグアイ戦、ナミビア対カナダ戦の2試合が行われます。満員のスタンドにはためく大漁旗こそは復興の最大のシンボルとなるはずです。
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