今季限りで現役を引退した元ジャパン戦士で、2015年W杯イングランド大会に出場し、大活躍した五郎丸歩さんが第二の人生をスタートさせました。さる7月5日、古巣のヤマハ発動機が新リーグ参入のために設立した静岡ブルーレヴズのYouTubeチャンネルで、クラブ・リレーションズ・オフィサー(CRO)就任を発表しました。
CROとは、あまり聞き覚えのない肩書きです。スポーツの世界ではサッカーJリーグ・鹿島アントラーズの中田浩二さんが同じポジションに就いています。かねてより中田さんは「Jリーグチェアマン」を目指すことを公言し、昨年3月には筑波大学大学院の社会工学学位プログラム博士前期課程を修了しました。以前、CROの仕事内容について聞くと、こう答えてくれました。
「クラブとステークホルダー(利害関係者)を連携させる役割。地域やスポンサー、サポーター、メディアなどクラブと関わりのある人たちをつなげるため、いろいろなところに出て行くのが仕事です」
要するに営業、広報、広告塔を兼ねたマルチな役割ということです。CROに就任した五郎丸さんに対し、「彼にはいろいろなところでブルーレヴズの宣伝をしてもらいたいし、地域に貢献してもらいたい」とは山谷拓志社長。五郎丸さんも、このポジションについて「一番しっくりくる」と納得の様子です。
「このチームには13年お世話になったので恩返ししたい気持ちと、ラグビー界を盛り上げたいという思いの両方がひとつになったのがCRO」
中田さんが「Jリーグチェアマン」を目指すなら、五郎丸さんは「社長」です。
「新社長からは『飾りではなく、しっかりとクラブ経営を学んでほしい』と言われました。まずはチケットから売り、社長になれるまでの実力を、しっかりつけていきたいと思います」
新会社・静岡ブルーレヴズは静岡県磐田市にオフィスを構え、静岡県全域をホストエリアに設定しています。山谷社長は07年、日本バスケットボールリーグ(JBL)に参入する栃木ブレックス(現・宇都宮ブレックス)の代表取締役社長に就任すると、クラブ創設3年目で日本一を達成しました。14年に当時経営難に陥っていたつくばロボッツ(現・茨城ロボッツ)の代表取締役社長となり、20-21シーズンにはB2リーグ準優勝とB1リーグ昇格を果たすなど、スポーツにおけるプロ経営者としての実績は申し分ありません。
言うまでもなく、これまでラグビーは企業スポーツの象徴的存在でした。企業がスポーツチームを抱える大きな目的は①社威発揚、②広告宣伝、③福利厚生――この3つです。ラグビーはそれに合致していました。
企業業績が好調なうちは、それでもいいのですが、業績が悪化してしまえば、利益を生み出さないスポーツはコストカットの対象となります。最悪の場合は廃部です。バブル崩壊後、いったいどれだけ多くの企業スポーツが姿を消したことでしょう。
その意味で、チケット販売やスポンサー獲得、放送・配信権収入を柱とする新会社設立は、ラグビー界の今後を占う重要な試みと言っていいでしょう。
五郎丸CROに課された喫緊のミッションは、「ホストゲーム開幕戦を満員にする」ことです。
来年1月開幕予定の新リーグでは、日本ラグビー協会が保持していた興行権を各クラブが担います。ホストゲームのチケット売り上げは、クラブを運営する上で重要な収入源になります。山谷社長は「新リーグになって興行権がクラブに移る。最初のホストゲームを満員にすることが一番のインパクトになる。彼がそのミッションを担う。責任は重大です」と語っています。
その際、CROに就任した五郎丸さんのネームバリューが役立つことは言うまでもありません。
サッカーとバスケットボールリーグのプロ化に尽力した川淵三郎さんは、Jリーグで“地域密着”を打ち出した理由をこう語っていました。
「クラブが一企業だけの持ち物だったら、その企業が倒産したら、クラブまで潰れてしまう。これでは何のためのクラブかわからない。そうならないためにも、なるべく複数の企業に入ってもらい、行政にも力を貸してもらう。市民、行政、企業の三位一体。Jクラブは単なる営利団体としてではなく、地域社会に貢献する法人という認識が必要だ」
スポーツの世界には「名選手、名伯楽にあらず」という言葉がありますが、名選手が名経営者になるのは、それ以上に難しいものです。その意味で五郎丸さんのチャレンジにはロールモデルとしての期待がかかります。
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