関東大学ラグビー対抗戦Aグループは12月6日、東京・秩父宮ラグビー場で明治大学が早稲田大学に34対14で勝ち、2季連続18度目の優勝を果たしました。明大の勝因は「前へ」の意識でした。
「前へ」の意識が如実に表れていたのが前半16分、ナンバーエイト箸本龍雅選手が奪った先制トライでした。明大FWは圧力をかけ、じわりじわりと敵陣深くに侵入します。スクラムでインゴール目前にまでにじり寄り、最後は箸本選手がボールを持ち出し、2人を弾き飛ばしました。
19分、2つ目のトライを演出したのも箸本選手でした。ハーフウェイライン付近でボールを受けると、ディフェンスラインをすり抜け、大きく前進。フランカー繁松哲大選手につなぎ、最後はウイング山本貴大選手がインゴール左中間に飛び込みました。
また箸本選手は守備でも大車輪の活躍を演じました。前半2分、体を張って早大ナンバーエイト丸尾崇真選手の突破を防ぎ、味方のボール奪取に繋げました。5分には自陣でのブレイクダウンでジャッカルを決め、相手の反則を誘いました。
「敵陣に行きたかったんですが、相手もいいランナーがいるので自陣に戻されてしまった。だから“絶対に取り返してやろう”“チームを前に出してあげよう”という思いが、あのプレーにつながりました」
箸本選手は会心の表情で語りました。
結局、終わってみれば34対14の完勝。早大は前後半に1トライずつあげ、意地を示しましたが、明大を慌てさせるまでには至りませんでした。全国大学選手権での巻き返しに期待しましょう。
田中澄憲監督は喜びを抑えるように、こう語りました。
「厳しい試合でしたが、勝つことができてほっとしています。これも早稲田さんに“明治らしさ”を引き出してもらったから。これからもっと成長して、大学選手権に向かっていきたいです」
続いてマン・オブ・ザ・マッチに輝いたキャプテンの箸本選手です。
「“明治スタイル”“明治らしさ”にフォーカスして取り組んできました。対抗戦優勝という結果はメンバー23人だけじゃなくチーム全員の頑張りが評価されたものだと思っています。試合に出ていないメンバーを負けた気持ちにさせたくないという思いで、今日は試合に臨みました」
試合後の会見では監督、キャプテンともに「明治らしさ」という言葉を口にしました。では箸本選手にとって、明治らしさとは?
「縦に強いラグビー。迷ったらコンタクト。一歩でも前に。そういった部分を前面に出していこうと。逆に自分たちはそのカラーを出せないと、絶対勝てない」
余談ですが、戦時中、米国生まれの野球は敵性スポーツと見なされ、ストライクは「正球」、ボールは「悪球」など用語はすべて日本語に改められました。1ストライクは「よし一本」です。
同じようにイングランド生まれのラグビーも敵性スポーツと見なされ、トライという用語は使用禁止になりました。では、どんな言葉に改められたか。何と「略陣」でした。敵の陣地を「攻略」し、「陥落」させたということでしょうか。
誰がトライを「略陣」に改めたのか知りませんが、その背景にはスポーツによる戦意発揚策が見え隠れします。
私はスポーツを“闘争心の平和利用”と考える者です。さすがに「略陣」という言葉には違和感を覚えますが、「闘球」(ラグビー)において、敵陣に切り込み、前進し、敵陣に旗を立てるという強い意志は必要でしょう。
言うまでもなく「前へ」の明治スタイルを打ち立てたのは明大ラグビーのシンボルともいえる北島忠治元監督です。
<僕の方針は、「たとえ目の前に十五人の敵がいようとも、ひるまずに突進せよ」。もちろん常識的に考えて、十五人を相手にどんなに豪快な突進をしたところでつぶされることはわかっている。しかし、突進してつぶされないために毎日毎日、己を鍛え突進力に磨きをかけるんだ。そんなことをしなくても、ステップのひとつも覚えれば、楽に相手をかわせるかもしれない。しかし、ラグビーの本質はぶつかり合いのスポーツ。ぶつかり合いで勝てない奴がステップを覚えても、ラグビーの本道からはずれているような気がするんだ>(『「前へ」明治大学ラグビー部 受け継がれゆく北島忠治の魂』明治大学ラグビー部著・カンゼン)
6日の試合、草葉の陰から北島さんも、さぞ喜んでいたことでしょう。
明大学内の男性用トイレには「一歩、前へ!」の張り紙があります。これは都市伝説ではなく、ホントの話です。
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