W杯開幕まで、あと半年。ホストカントリーとして世界の強豪を迎え討つジャパンは、3月20日に沖縄県での合宿を打ち上げました。10日からスタートした合宿では、「コンバットトレーニング」というメニューがニュージーランドの柔術家ライアン・ヘンリーさんの指導の下に行われました。
ヘンリーさんはニュージーランド人で初めてブラジリアン柔術のブラックベルトを締めた人物として知られています。グレイシー柔術の名手ホイラー・グレイシーさんに師事し、現在は地元オタゴにジムを構え、多くの教え子を輩出してきました。ヘンリーさんの師ホイラーさんの兄は日本でも有名な「400戦無敗」のヒクソン・グレイシーさんです。グレイシー柔術の創始者エリオ・グレイシーさんの三男で、総合格闘技イベント『PRIDE』のリングに上がり、高田延彦さんや船木誠勝さんなど日本の著名レスラーを倒してきました。そのヒクソンさんの6歳下の弟・ホイラーさんもまた日本のリングで桜庭和志さん、山本“KID”徳郁さんらと戦いました。特技はグラウンドの攻防で“寝技世界一決定戦”のアブダビコンバットで3連覇を果たしています。
そのホイラーさんの弟子ヘンリーさんと、ジャパンの指揮を執るジェイミー・ジョセフさんは旧知の仲です。ジェイミーさんはスーパーラグビー・ハイランダーズのHC時代の2011年からの6年間、ヘンリーさんの柔術式トレーニングをチームに取り入れていました。その意味でヘンリーさんは15年のスーパーラグビー制覇に貢献した人物とも言えます。
今回は沖縄合宿に合わせて来日。ヘンリーさんはジャパンの選手たちに受け身など体の使い方を教えました。起き上がるスピードやタイミングを体に染み込ませ、ブレイクダウン(ボール争奪戦)での粘り強さに繋げるというのが、その狙いでした。
ジャパン前 HCのエディー・ジョーンズさんも格闘技のエッセンスをラグビーに取り入れることに熱心でした。エディーさんは格闘家の髙阪剛さんを 2015年W杯イングランド大会が始まる前、ジャパンのスポットコーチに招きました。
オファーを受けた髙阪さんが「ラグビーのことは全く知らない。それでもいいのか?」と念を押すと、エディーさんは「それでも構わない。ぜひ来てほしい」と語気を強め、こう続けたそうです。
「大柄な外国人を倒すにはディフェンスラインでのタックルのスキルを上げなければならない。そのためには1対1で命をかけて戦っているキミのような格闘家の経験と知識が必要なんだ」
では具体的に、髙阪さんはジャパンのタックルの質をどう変えたのでしょう。低く突き刺さるようなタックルなら、わざわざ格闘家に教わらずとも、以前からジャパンのスキルとして研究されてきました。
エディーさんは格闘家に何を求めたのでしょう。髙阪さんは話します。
「ただ低いタックルなら代表レベルの選手は皆できるんです。しかし、そのタックルは相手を倒す作業にとどまっていた。総合格闘技の場合、相手をダウンさせても、まだ足を前に出し、トップポジション(倒した相手の上になる状態)をとるまでタックルの動作をやめない。倒しただけなら、いつ立ち上がってくるかわからないからです。要は倒すか、倒し切るか。そこに違いがあったんです」
髙阪さんがジャパンの戦士たちに教えたのはタックルの技術だけではありません。修羅場の闘争スキルをも授けたというのです。
これについて、ロックの真壁伸弥選手から、こんな話を聞きました。
「髙阪さんから教わったことのひとつに“ぎりぎりの局面では足を一歩前に出せ。準備ができていない相手だったら、それだけでビビる”というものがあるんです。実際、南アフリカと戦っている時がそうでした。スクラムを組もうとして、こっちが足を前に出すと、不安そうな表情を浮かべるんです。“こんなはずじゃなかった”とね。こっちは“髙阪さん、ありがとう”とつぶやいていましたよ」
W杯イングランド大会での“ブライトンの奇跡”――そう南アフリカ戦の勝利に、「髙阪剛」という格闘家がどれだけ貢献したか。真壁選手の証言が多くを物語っています。ヘンリーさんの柔術式トレーニングも、半年後にはジェイミー・ジャパンの血肉になっているに違いありません。
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