「MVPは周東」と“世界の王”絶賛。アウトをセーフにする“魔法の足”【二宮清純コラム】

2020年10月30日(金)更新

15:00

「MVPは周東」と“世界の王”絶賛
アウトをセーフにする“魔法の足”

　優勝までのマジックを2としていた福岡ソフトバンクが27日、本拠地で行われた2位・千葉ロッテとの直接対決に5対1で勝利し、3年ぶり21度目（1リーグ時代含む）のリーグ優勝を決めました。王貞治球団会長が「チームの牽引者」と呼んだのは意外な選手でした。

「嫌らしい選手」

「今季のMVPは周東」

　優勝直後、球団のトップが個人名をあげ、そこまで絶賛するのは、プロ野球の世界では珍しいことです。ましては慎重居士の王会長が……。

　逆に言えば、それだけ周東佑京選手の活躍ぶりが目覚ましかったということでしょう。

　周東選手のここまでの成績は打率2割6分9厘、47盗塁（28日時点）。7月の後半にセカンドのレギュラーに定着すると8月10盗塁、9月14盗塁と走りまくり、10月27日には球団新記録の月間20盗塁をマークしました。彼の活躍なくして10月10日からの12連勝はあり得なかったでしょう。

　王会長は続けます。

「相手にとってあんな嫌な選手はいない。彼が出塁すれば、二盗があるから二塁打と同じ。チャンスが広がります。最後の12連勝も含め、彼の成長、活躍が特に大きかった」

　周東選手、足のみならず舌も快調です。

「最初は代走での出場で、こんな結果を残せるとは思っていませんでした。ここまできたら、もう走れるだけ走ろうと思っています。何個とか決めずに走ります」

　その言葉通り、周東選手は28日のロッテ戦でも盗塁を決め、通算1065盗塁の福本豊さんが持つ11試合連続盗塁のプロ野球記録に並びました。

　足自慢の選手はたくさんいます。周東選手の場合、他の俊足選手とはどこが違うのか。自身も4度の二桁盗塁を記録しているホークスOBの柴原洋さんに話を聞きました。

「足の速い選手といってもタイプは様々です。北海道日本ハムの西川遥輝は抜群のスタートセンスで盗塁を稼ぐタイプですが、周東はトップスピードに入る早さを武器にしています。1歩、2歩と進んだところでもうトップスピードに乗っている。そしてそれが最後まで持続するんです。だから少々、スタートが遅れてもセーフになる」

“走り屋”を卒業

　それを象徴するシーンが28日の盗塁です。3回1死一塁から、周東選手はショートゴロながらゲッツー崩れで出塁し2死一塁。0対0の均衡を破るためにも、どうしてもスコアリングポジションに進みたい場面です。その焦りをロッテバッテリーは見逃しませんでした。

　周東選手、先発サウスポー、チェン・ウェイン投手が1ボールから投じた牽制球に誘い出されてしまったのです。しかし、ここで終わらないのが王会長のいう“嫌らしさ”です。自慢の足で、送球が来るよりも早く二塁を陥れました。

「（牽制の瞬間は）ヤバいと思いました。以前は飛び出したときに止まったので、行ったらどうなるのかな、と。あれはめちゃめちゃラッキーでした」

　単なる“走り屋”で終わるか、それとも俊足をいかしてレギュラーの座を確保し、球界を代表するプレーヤーに上り詰めるのか。その分かれ道となるのが打力、わけても打率です。昨季は1割9分6厘とバットの方ではパッとしなかった周東選手ですが、今季は2割6分9厘（28日時点）と成長著しいものがあります。その原因を柴原さんは次のように分析します。

「昨季、そして今季も7月、8月くらいまでは“塁に出なくては”という意識が強すぎたのか、当てるようなスイングが多かった。ボールを迎えに行っていたんですね。当然、それでは打率は上がりません。2割2分、3分がやっとでしょう。それでも工藤公康監督はスタメンで使い続けた。打てなくても引っ込められることがない。それで思い切りやれるようになったんです。9月に入ると明らかにバットが振れてきました。これまで迎えに行くようなスイングだったのが、きちんとボールをポイントまで呼び込んで振っている。あの足があれば2割7分は難しくないですよ」

　目下、リーグトップの47盗塁。2位西川遥輝選手（北海道日本ハム）に9個の差をつけています。初タイトルをバネにスピードスターの地歩を確実に固めつつある24歳です。