稲葉ジャパン、プレミア12制し“世界一”。「監督経験なし」不安解消した攻撃的継投【二宮清純コラム】

2019年11月19日(火)更新

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稲葉ジャパン、プレミア12制し“世界一”
「監督経験なし」不安解消した攻撃的継投

　12の国・地域が参加して行われた第2回プレミア12は侍ジャパン（野球日本代表）の初優勝で幕を閉じました。侍ジャパンの“世界一”は2009年の第2回WBC以来、10年ぶりです。

4年前のリベンジ

　17日、東京ドームで行われた韓国との決勝。先発は今大会3度目の登板となる山口俊投手（巨人）でした。しかし、立ち上がりからピリッとせず、初回に2本塁打を浴び3点を失いました。その裏、鈴木誠也選手（広島）のタイムリーツーベースで1対3とすると、稲葉篤紀監督はすぐに動きました。3失点の山口投手を1回で諦め、2番手に下手投げの高橋礼投手（福岡ソフトバンク）を投入したのです。

　期待に応えた高橋投手は2イニングを無失点でしのぎました。2回裏には山田哲人選手（東京ヤクルト）の逆転3ランが飛び出し、4対3。その後も稲葉監督の継投に躊躇はありませんでした。4回から田口麗斗投手（巨人）、6回は中川皓太投手（巨人）、7回は甲斐野央投手（福岡ソフトバンク）とつなぎ、韓国打線に的を絞らせません。さらに8回は山本由伸投手（オリックス）、9回は山﨑康晃投手（横浜DeNA）をマウンドに送り、5対3で逃げ切りました。7回以降は1人もランナーを許しませんでした。実に7投手を動員した総力戦。稲葉ジャパンは超の字のつく攻撃的継投で、世界の頂点に立ちました。

　野手出身者が監督になった際、最も懸念されるのが継投です。前代表監督の小久保裕紀さんがそうでした。4年前のプレミア12、準決勝の韓国戦。3対0とリードしながら、9回にイニングまたぎの則本昂大投手（東北楽天）が連打を浴び、松井裕樹投手（東北楽天）、増井浩俊投手（北海道日本ハム・当時）に火消しを任せたものの4失点。継投が後手後手に回り、逆転負けを喫しました。小久保さんは「敗因は自分の継投ミス」と唇を噛んだものです。このときの打撃コーチが誰あろう稲葉監督です。

五輪への“実証実験”

　稲葉監督は17年7月、小久保監督の後を受け、侍ジャパンの監督に就任しました。プロ通算2167安打と選手としての実績は十分でしたが、過去に監督経験はありません。「未経験者で大丈夫か？」と心配する声もありました。

　代表監督選出に関わった侍ジャパン強化本部長の山中正竹さんは、稲葉さんを推した理由を、こう明かしました。

「侍ジャパン強化委員会が新監督選出にあたって条件としていたのは、求心力、短期決戦対応力、国際力、五輪対応力の4つ。特に稲葉は現役時代に08年北京五輪、09年と13年のWBCに主力として出場。さらに小久保ジャパンのコーチも務めるなど国際試合の経験が十分にありました。監督経験ということなら、前監督の小久保にも監督経験はありませんが、17年のWBCで侍ジャパンをベスト4へ導きました。その時の打撃コーチが稲葉。小久保の野球を継承する意味で、稲葉が適任だと考えました」

　プレミア12には現役バリバリのメジャーリーガーは参加していません。ある意味、トップ選手の揃う日本は勝って当たり前です。だが、指揮官にとって「勝って当たり前」と言われるチームを率いることほど難しいことはありません。優勝直後の指揮官の涙が、それを表していました。

　侍ジャパンは、来年夏に開催される東京五輪での金メダルが、半ば義務付けられています。稲葉監督にとって、プレミア12での優勝は指揮官としての自信を得る上で、最高の大会となったはずです。

「継投とは夕立の傘」。そう語ったのは、小久保ジャパンの投手コーチ・権藤博さんです。降り始めてから傘をさしても遅い。空模様が怪しくなったら、さっと代えろ----。稲葉監督は今回、それを実践しました。東京五輪を見据え、最高の“実証実験”となったのではないでしょうか。