二宮清純コラムオリンピック・パラリンピック 奇跡の物語
~ビヨンド・ザ・リミット~
2022年2月11日(金)更新
スマイルジャパン、メダルへの階段
PS戦は「選択肢増やせ」と元代表
アイスホッケー女子日本代表の「スマイルジャパン」は8日、1次リーグB組第4戦でチェコをペナルティー・ショット・シュートアウト(PS戦)の末に勝利し、史上初の決勝トーナメント進出を決めました。12日、準々決勝でフィンランドと対戦します。
ベテラン久保の執念
チェコ戦、試合は2対2のまま突入した延長戦でも決着がつかずPS戦にもつれ込みました。
PS戦はサッカーでいうペナルティー・シュートアウト、いわゆるPK戦です。しかしサッカーがゴール正面、12ヤード(約10.97メートル)離れた位置に置いたボールを蹴るのに対し、PS戦はリンク中央からドリブルでパックを運び、相手ゴーリーのスキをついてシュートを放ちます。
サッカーのゴールの大きさがタテ2.44メートル、ヨコ7.32メートルであるのに対し、アイスホッケーのそれはタテ1.22メートル、ヨコ1.83メートル。約8分の1程度のサイズに加え、防具をつけたゴーリーが待ち構えているわけですから、シュートを決めるのは容易ではありません。
チェコ戦では2人目に登場したFW久保英恵選手の、相手GKクララ・ペスラロバ選手のまた下を狙ったシュートがかすかにゴールラインを越え、正規の3ピリオドでは2対2、PS戦は1対0、計3対2で日本が勝利しました。
「あれはベテランの久保選手らしいシュートでした。GKとの駆け引きに勝ちましたね」
そう語るのは元日本代表DFで1998年長野五輪に出場した三浦孝之さんです。
このシーンを振り返りましょう。久保選手は最初からペスラロバ選手のまた下を狙っていたのでしょう。ゴールの正面で一度フェイントを入れ、右へ流れて素早くスティックを振り抜きます。次の瞬間、パックはペスラロバ選手の右太ももに当たり、スルッとまた下を抜けていきました。ほんの数センチ、ゴールラインを超えた程度ですがゴールはゴールです。久保選手の執念が乗り移ったかのようなゴールでした。
難敵フィンランド
三浦さんの解説。
「久保選手は相手ゴーリーをうまく動かしましたね。自分が左から右に動き、ゴーリーの左足のレガースが動いた瞬間を見逃さなかった。相手は右足でプッシュしようとしたが間に合わなかった。そこでほんの少しだけ空いたまた下にうまくパックを通しました。計算通りだったと思います」
しかし、PS戦で日本が決めたゴールは、この1本だけです。6日の中国戦は5人全員が失敗し、1対2で敗れてしまいました。
PS戦でのシュートの成功率を高めるには、どうすればいいのでしょう。三浦さんは「PS戦は(ゴーリーとの)我慢比べ」だと言います。
「中国戦、チェコ戦を見ていると、日本の選手たちは先に自分が打ちたいコースを決め過ぎているように感じられます。決めたいところばかりを狙っている。だから一本調子になってしまうんです。これではなかなかうまくいきません。いくつか選択肢を持ってPS戦に臨む必要がありますね」
三浦さんによると、狙うコースは①ゴールの右上、左上、②ゴーリーの両肩の上、③また下、④キャッチンググローブの脇、⑤スティックを持っているゴーリーの脇――主にこの5つだというのです。
「PS戦は、どうしても自分の得意なコースで勝負しがちですが、相手に読まれているリスクもある。そこで次の選択肢、つまり狙いを切り換える必要が出てくるのです。これができているのが久保選手ですね」
12日に対戦するフィンランドは世界ランキング4位、日本は同6位ですから格上の相手です。過去に3回銅メダルに輝いています。日本はこれまで五輪、世界選手権で3回戦って、まだ1度も勝ったことがありません。日本が難敵を倒す上でPS戦は、むしろ望むところです。スマイル全開で準決勝進出を果たしてもらいたいものです。
二宮清純