二宮清純コラムオリンピック・パラリンピック 奇跡の物語
~ビヨンド・ザ・リミット~

2022年3月11日(金)更新

「レジェンド」の背中を追いかけて
川除大輝、クロカンのエース継承

 北京冬季パラリンピック4日目、クロスカントリースキー男子クラシカル20キロ立位で川除大輝選手が初の金メダルを獲得しました。7大会連続出場で、3つの金メダルを獲っている新田佳浩選手は7位でした。

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リズミカルな走法

 川除選手は生まれつき、両手足の中指と人差し指がありません。ストックが握れないため、それを使って加速を得ることができないのです。

 しかし、そうしたハンディキャップを補って余りあるアドバンテージを川除選手は身に付けています。重心を高く保ったままのリズミカルなピッチ走法で、後半に入ってから、さらにペースを上げていくのです。

 川除選手の雪上での躍動を見ていて、昨年夏の東京パラリンピックで、車いすバスケットボール男子日本代表を初の銀メダルに導いた鳥海連志選手のパフォーマンスを思い出しました。

 鳥海選手も生まれつき両手足に障がいがあり、右手の指は4本、左手は親指と人差し指の2本しかありません。両下肢は3歳の時に切断しています。

 車いすバスケットは障がいの程度に応じて最小1.0から最大4.5までの持ち点が与えられます。コート上の5人の合計点は14点以内でなければなりません。障がいの軽い選手をハイポインターと呼びます。鳥海選手の持ち点は2.5点ですから、決して軽いわけではありません。

 にもかかわらずスピーディーで抜群の運動神経を誇る鳥海選手は片輪を浮かす“ティルティング”姿勢でのシュートを武器に点を獲りまくります。その活躍が認められ、東京大会ではMVPに輝きました。

 川除選手は身長161センチと小柄ですが、この鳥海選手に似た高い身体能力とセンスの良さを感じさせるのです。

 残り5キロで、2位蔡佳雲選手(中国)とは1分15秒差。荒井秀樹チームリーダーの掛け声を耳にし、川除選手はラストスパートをかけます。

新田佳浩の存在感

 レース前の作戦はこういうものでした。

「自分自身、後半に徐々に調子が上がってくるので、最初は落ち着いて入ろうと思っていた。20キロだと後半に他の選手のペースが落ちていくので、そこで自分のペースを上げようという展開を考えていました」

 まさしく作戦通りの展開になりました。残り5キロ、スピードスケート選手のフォームを参考にしたという独特の腕の振りで、他の選手たちとのタイム差を、さらに広げていきます。ゴールの瞬間、川除選手は小さく右手を突き上げました。

「まさか自分が、という気持ちがすごく大きくて実感がわいてこないです」

 初々しく、そう答えた川除選手、その背中を追いかけていたレジェンド・新田選手の名前をあげました。

「ずっとトップを走ってきた新田さんに対し、“自分がチームを引っ張っていける力がついたよ”という証明ができた。これからは、さらに上を目指していきたい」

 川除選手と新田選手、この2人の関係はスキージャンプの葛西紀明選手、小林陵侑選手の“師弟愛”を見るようです。愛弟子の金メダルに対し、葛西選手は「今までの僕だったら、悔しくてこんな思いもなかったと思うけど、素直に喜べた」と語りました。

 この大会を「集大成にする」と語っていた新田選手、ゴール後、川除選手について聞かれ、「今後を引っ張ってくれる存在。これがゴールではないのでもっと高みを目指して頑張ってほしい」と答えました。まだ21歳。冬季パラリンピックにおいて、日本選手団を牽引する存在になってもらいたいものです。

二宮清純

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