2026年1月30日(金)更新
スノボ小栗大地、45歳の決意
「勝負自体を楽しんでいる」
取材日:12月26日(金)
スポーツジャーナリスト二宮清純が、ミラノ・コルティナ冬季パラリンピック日本代表を直撃。テーマは「挑戦」です。
3月6日から15日にかけて開催されるミラノ・コルティナ冬季パラリンピック。スノーボード日本代表キャプテンの小栗大地選手は、3度目となるパランピック出場です。この1月に45歳となったベテランは、バンクドスラロームとスノーボードクロスの2種目に出場し、初のメダル獲得を目指します。
三沢拓との出会い
――小栗さんが義足になったのは、仕事中の事故だったそうですね。
小栗大地: そうなんです。20代の頃はプロスノボーダーとして活動していましたが、その後、一旦諦めて就職しました。事故に遭ったのは32歳の時。2013年の夏、すごく暑い日で、とても忙しかった。工場では鉄を取り扱っていて、鉄板の束を倒してしまい、それが右足の上に落ちてきたんです。その時点で既に足は取れていました。
――相当なショックだったでしょう。
小栗: いや、それがですね。僕はその現場で、救急車が来るまでの間に“このままだと義足になるな”と考えていました。“義足でスポーツ何ができるかな。スノーボードはできるんじゃないかな”と思っていたので、あまり不安はなかったですね。
――それだけの大怪我を負った直後にもかかわらず、至って冷静だったんですね。
小栗: そうですね。僕自身、友だちに片足のスキーヤーの三沢拓がいて、義足でゲレンデを滑っていた。それで不安にはならなかったのかもしれません。
――三沢さんはパラアルペンスキーで2006年のトリノパラリンピックから5大会連続出場のパラリンピアンです。三沢さんとは海外遠征に行かれた際に初めてお会いしたとか。
小栗: 僕は20代の頃、毎年のようにニュージーランドに行き、ゲレンデで滑っていました。そこで彼と知り合った。彼が片足で急斜面を滑ってくる姿を見て、衝撃を受けましたね。
――でも、その時はまさか自分も義足になるとは思っていなかったでしょう?
小栗: 夢にも思っていませんでした。ただ、もし自分が義足になったら、みたいな想像は少ししたことがありました。その時から“スノーボードだったらできるんじゃないか”みたいなことも考えたりしていました。
――事故によって、自分の中で大きく変わった点は?
小栗: 僕にとって、一度諦めたスノーボードにもう一度チャレンジできることが、すごく大きかった。昔スノーボードをやっていた頃よりも競技に対して前向きになりました。スノーボードができることだけでも幸せ。トレーニングがつらいと思わなくなりましたね。
――初出場のパラリンピックは事故から5年後の18年平昌大会。バンクドスラロームで6位、スノーボードクロスで7位。2種目ともに入賞しました。
小栗: 全然満足できる結果ではありませんでした。特に平昌のバンクドスラロームは3本滑ってベストタイムで競う方式でした。その3本とも転倒してしまったので、“それで入賞してもなぁ”という感じでしたね。
左から小須田潤太, 市川貴仁, 岡本圭司, 小栗大地, 田渕伸司, 大岩根正隆
「仕上がることはない」
――4年後の北京大会でも2種目で入賞(スノーボードクロス5位、バンクドスラローム7位)しました。
小栗: 北京は、平昌からスタンスを変えて(右足が後ろのレギュラースタンスから左足が後ろのグーフィースタンス)4年目のシーズンでした。ようやく慣れてきたかなっていう感じではありましたが、義足のセッティングが完璧ではなく、自分的にはそんなに良い滑りではなかったと思っています。
――それまでやってきたスタンスからの変更は、かなり戸惑いがあったんじゃないですか?
小栗: 義足になる前からレギュラースタンスだったので、スタンスを変えたばかりの頃は全然滑れなかった。スノーボードは逆向きで滑ることもあるのですが、アルペンスノーボードはあまりしないですし、僕自身、スタンスをスイッチするのがすごく苦手だった。だからスタンスを変えた直後は本当に大変でした。例えるなら野球で右打ちから左打ちに変わるようなものだと思います。
――それは相当な練習量が必要となりますね。昨年3月にカナダで行なわれた世界選手権、スノボートクロスで3位に入りました。今回のパラリンピックでのメダルへの手応えは?
小栗: 昨シーズン、スノーボードクロスはワールドカップで1回優勝し、世界選手権は3位になりました。パラリンピックの前年ということで、メンバー的にもトップ選手が全員出てきていた中で、この結果を残せたというのは、トップ選手たちと勝負できる力がついてきたと実感しています。
――小栗選手はスノーボードの魅力に取りつかれ、プロにもなった。今度はパラリンピックでメダルを目指す。競技を楽しむ部分と勝負する部分。どちらにウエイトを置いているのでしょうか?
小栗: そうですね。僕は上達することが楽しい。スノーボードをやっているのも楽しいんですが、いろいろ試しながら、突き詰めていく作業が好きです。勝負自体を楽しんでいます。結果が残せず苦しい時もありますが、やっぱりスノーボードをやれていること自体が幸せ。メダルは欲しいですが、色までは気にしていないという感じですね。
――大好きな競技を一生続けたい、と?
小栗: それよりも一生上手くなりたい、という感覚ですね。それが許される環境を得るためには、パラリンピックに出て結果を残し続けなければなりません。上達し続けられる限り、成績を残すことができる限りは滑り続けたい。
――今回の企画は「挑戦」をテーマにしています。小栗選手にとっての挑戦とは?
小栗: 僕自身は常に変化し続けていかないと、現状維持すらできないと思っています。なので、義足のセッティングにしても、いいものが出たとしても、どんどん別のものを試していきます。常に挑戦していく。それを辞めてしまったら、世界で戦えなくなってしまうのかな、と感じています。
――それは以前、会見で話していた「仕上がることはない」というコメントにつながるのでしょうか?
小栗: そうですね。「仕上がった」と思ってしまったら、変化する必要がなくなってしまう。常に上を目指し、変化し続けることが大事だと考えています。
【インタビュー後記】
パラスノーボードは、障がいの種類や程度に応じてクラス分けされ、バンクドスラローム(旗門を回るタイム競技)とスノーボードクロス(バンクやジャンプのあるコースで勝ち抜き戦)の2種目で競い合います。今回が3度目のパラリンピックとなる小栗大地選手には、メダルの期待がかかります。だが「勝負を楽しむ」と語る、その口ぶりは穏やかで、全くプレッシャーを感じさせません。コルティナダンペッツォからの朗報を待っています。