そのキャラを全肯定しなければ
言葉に思いがのらない
――坂道に限らず、お芝居をする上では、どんなことを大事になさっているんでしょうか?
山下:技術というよりもスタンスに近いんですが、僕はわりと、自分が演じているキャラのことを全肯定するんです。例えば、立場として敵側であったり、ヘイトを集めるタイプのキャラだったりしても、その一番の理解者でありたいというか。
どんな行動や言葉であれ、そのキャラの意志と正義があって、それを貫いた結果アクションを起こしているんだと思うんです。だとすれば、その役を演じる僕がそれを理解して、肯定しなければ、そのキャラの思いから出る言葉にはならない。そう思って演じています。
――いわゆる「憑依する」ような感覚が近いんでしょうか?
山下:なのかもしれないです。だから、結構周りの捉え方とギャップが生まれることも多くて。例えば、『僕のヒーローアカデミア』のアニメ6期で、デク(緑谷出久)がいわゆる“闇堕ち”と言われる期間があるんですが、僕はそれを全然“闇堕ち”だとは思わないんです。
確かに、暗いシーンも多いし、見た目も敵<ヴィラン>のようかもしれない。でも演じるときには、そんなつもりは一切ない。僕にとっては、デクが「一人で戦う」という覚悟を決めた、むしろ前に進んでいく重く強い決意だと感じていたんです。
――言われてみると確かに……!
山下:闇堕ち”と言われるのは、デクの中での気持ちが強くなっていって、みんなの気持ちと歩調が合っていなかったからだと思うんです。演じている時期は、デクに合わせて僕もすごく孤独な戦いをしている気持ちになっていました。あんまり周りが見えなくなっていたんじゃないかっていうぐらい。
実際、アフレコの時期には体重が落ちていって、周りからも心配されました。会うたびに「痩せた」「疲れてるね」って言われて。
――演じるキャラによって、かなり気分も変わったりするんですね?
山下:そうですね。落ち込んだキャラを演じたあとはすごく疲れた感じがしたり、明るいキャラを演じたあとは自然と元気になったり。結構、キャラに左右されがちなので、メンタルコントロールは大変な部分もあります。
2024年4月クール
『怪異と乙女と神隠し』の見どころ
――『怪異と乙女と神隠し』では、化野蓮役を演じられる山下さん。このアニメの見どころと、演じるキャラクターの魅力を教えてください!
山下:『怪異と乙女と神隠し』は、いわゆる都市伝説や民話、伝承などに残っている妖怪、あるいは解き明かされていない不思議な出来事を描いた作品です。
扱う怪異の幅も広くて、海外のものから日本のもの、古い伝承からネットスラングに至るまで、まるで古今東西の怪異の図鑑を見ているような感覚になれます。でも、ただ不気味なわけではなくて、ファイルーズあいさん演じる菫子や、僕が演じる蓮をはじめ、キャラクター同士の会話はテンポ含め独特で、不気味さとコメディが絶妙な感じに混じり合っている、だんだんと癖になっていく面白さが詰まった作品になっています。
あ、癖といえば同じ漢字で、癖(へき)の話を……結構女性キャラの描き方に癖(へき)を感じるので、その癖(へき)に合うものをお持ちの方ならば、ブッ刺さるんじゃないかな(笑)。
©ぬじま・小学館/「怪異と乙女と神隠し」製作委員会
僕が演じる化野蓮は、「なんでそんなに詳しいの?」というくらい怪異に詳しくて、作中の怪異の解説はおそらくほぼ僕がやっています(笑)。謎が多いキャラなので、彼が何者なのかは、ぜひ本編をご覧になって確かめてみてください!
2024年4月クール
『龍族 -The Blazing Dawn-』の見どころ
――『龍族 -The Blazing Dawn-』では、ルー・ミンフェイ役を演じられる山下さん。このアニメの見どころと、演じるキャラクターの魅力を教えてください!
山下:『龍族 -The Blazing Dawn-』は、元々中国で大人気の作品で、最近増えてきた中国アニメの吹替版です。もう、なんといっても映像の美しさがハンパない。すごいです。中国恐るべし、です。そんな綺麗なアニメーションの中に、日本のアニメからインスパイアされたであろう色々な要素が見られるところもあって、それが日本のアニメファンにとっても面白いんじゃないかと思いますね。
©2023 Shenzhen Tencent Computer Systems Company Limited
作品や物語の展開は、中国らしさというか少し日本とは違う部分もありますが、それが日本だとめずらしいテンポ感にもつながっていて。
それをどうやって面白くできるかが、声優として難しくもあり、楽しくやりがいを感じる部分でもあります。「全然、自由に演じてもらってかまわない」というお話はいただいているので、原音ともまったく違ったり、あえて原音の良さをそのまま残したり。とにかく「こっちのほうが面白い!」を積み重ねてつくっていってるので、ぜひ楽しみにしてみてください。
もし中国語版が観られる環境の方は、字幕版と吹き替え版で向こうのルー・ミンフェイと日本のルー・ミンフェイを聴き比べもしてもらえたら、嬉しいです!
取材・文/郡司 しう 撮影/小川 伸晃