声優・白井悠介
ロングインタビュー #3
支えてくれる人と、そして演じてきたキャラたちと。
“You’ll never walk alone.”を胸に歩んでいきたい
2024年10月8日更新
SHIRAI
INTERVIEW
『美男高校地球防衛部LOVE!』鳴子硫黄や『佐々木と宮野』の佐々木先輩をはじめ、『東京ミュウミュウ にゅ~♡』赤坂圭一郎、『アイドリッシュセブン』二階堂大和、さらには『ヒプノシスマイク』ではシブヤ・ディビジョンのMCグループ「Fling Posse」の飴村乱数役としてラップも披露もするなど、持ち前のイケボを武器に、役に合わせて幅広い演技を見せる白井悠介さん。数々のヒット作に出演する人気声優ながら、そこに至るまでの道のりは、けっして平坦ではありませんでした。このインタビューでは全3回にわたってその道のりと転機をたどりつつ、出演作品に対する思いも交えながら声優・白井悠介の素顔に迫ります。
『ヒプノシスマイク』飴村乱数への思い
――『ヒプノシスマイク』では「Fling Posse」飴村乱数として、ラップも披露されています。最初ラップをやると聞いてどのように感じましたか?
白井:すごく斬新な企画で楽しそうだと思いました。僕自身もヒップホップを聞いたり、カラオケでラップを歌うのは好きだったので、「むしろやりたかった!」と思ったくらい。
だけど、新しいことをやろうとしてるので、それが世間に受け入れられるかどうかの不安はありました。アニメ好きな人にちゃんと刺さるのかなぁという気持ちは、リリースされるまで拭い去れなかったですね。
まさか、ここまで人気が出るとは完全に予想外でしたけど(笑)。
――すごいですよね。2024年には「ヒプノシスマイク -Division Rap Battle- 10th LIVE ≪LIVE ANIMA≫」も公演され、回を重ねるごとに盛況ぶりも増していますが、最初からライブパフォーマンスのイメージもあったんですか?
白井:『美男高校地球防衛部LOVE!』でもライブでの歌唱はありましたし、ほかのコンテンツでもライブ経験はしていたので、『ヒプノシスマイク』に関しても「いずれはそういうことになるだろうな」とは思っていました。
でも実際ステージに立ってラップを歌ってみて、やっぱりヒップホップにはヒップホップにしかできないことがあるというのは身に染みましたね。たしか最初に歌を披露したのは、「アニメイトガールズフェスティバル」(AGF)で、池袋サンシャインシティの噴水広場だったかな。ラップならではの縦ノリってお客さんとの一体感がすごいんですよ。みんなでリズムに乗ってるというか。
そのときライブで感じた感覚、気持ちよさ、爽快感が、どれをとっても自分にとってはすごく新鮮でした。同じライブコンテンツといっても、音楽が違うだけでこんなに別の魅力があるのかと。
――白井さん自身も、ライブ自体をすごく楽しんでいらっしゃるんですね。乱数としてパフォーマンスするときはどんな気持ちでのぞんでいるんですか?
白井:乱数って、本当に楽しいことが大好きなんですよ。だから僕自身もライブになるとスイッチが入って、その空間や音楽を楽しんでいると思います。しかもふだんの自分なら絶対にしないこと、たとえばウインクをしたり、指でハート作ったり。そういうことがなぜか自然にできてしまうんですよね。
しかも、別にライブ前から「乱数っぽいパフォーマンスをしよう!」とか考えてるわけじゃないんですよ。だけど、ステージに立つと体が勝手に動いて、そういうパフォーマンスになる。憑依とまでは言わないと思うんだけど、あの感覚はなんなんだろうな。
――白井さんご自身は、乱数という人物をどんなふうにとらえているんですか?
白井:そうですね……うーん。
乱数の生まれたいきさつを考えると、本来いちばん人間っぽくない。だけどその実、いちばん人間らしいと思うんです。ふつうに人間として生きている僕らには、想像できないような苦しみとか悲しみの感情を抱えていて、彼はその感情にのまれてしまうときがある。そんな心と身体の動きって、ある意味めちゃくちゃ人間っぽくないですか?
論理的、合理的なだけでは生きていけない。頭ではわかっていても体が動く。自分の気持ちに折り合いがつかない。乱数だって、同じだと思うんです。時にはその感情が溢れ出て、すべてさらけ出したり取り乱したり。
そういう姿にすごく共感して、知れば知るほど支えてあげたくなってしまうし、だんだん愛おしさが増していく。
©『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』Rhyme Anima製作委員会
――演じている本人が言うと重みがあります……!
白井:だから、乱数には幸せになってほしいな、って素直に思います。
でも、彼の明るい部分というのもやっぱり魅力的ですよ。多分、この記事が出る頃には新しい、シブヤ・ディビジョンのCDも出てる頃かな。(*8月21日『. Fling Posse』発売)
新曲はめちゃくちゃポップで元気な明るい曲で、そういう一面もまた乱数の本質の一部なんだと思って聴いてもらえたら嬉しいですね。
誰もが一人で歩いているわけじゃない
――役作りでいうと、ご自身としてはどんなタイプだと思いますか?
白井:ロジカルに細かく構築していく、というよりも、わりと感覚的なタイプかなとは思います。一つ一つを言葉にしていくわけではなく、頭の中でそのキャラクターの雰囲気やイメージをして、その枠の中に落とし込んでいくというか。
それはもうずっと。高校生の頃、ガチャガチャのフィギュアに自分で声をあてて録画していたときからあまり変わってないと思います。
そのキャラの容姿や性格、年齢、生い立ち、趣味趣向といったようなプロフィールを見て、「この人ならこういう声かな」「この顔立ち、骨格ならこんな声が出るんじゃないかな」というのを、見つけていく感じですね。
――一つ一つの要素を噛み砕いて……ではなく、いろんな要素から人物像のイメージや声を作っていくんですね。
白井:いまでこそ、このやり方で苦労を感じることは少ないですが、最初の頃は引き出しも少ないから、音響監督さんから「こうしてもらいたい」と言われても、なかなか難しかったですね。
いろいろな役をやらせていただいたり、多くの作品やコンテンツに触れていくうちに、だんだん引き出しも増えてきて、ようやく現場での瞬発力、対応力みたいなものが身についてきたかな、という感じです。
いまはそういう現場での対応も楽しみながら、演じるキャラと一緒に作品を作っていく感覚でやらせてもらっています。
――そんな白井さんの、座右の銘をお聞きしていいですか?
白井:座右の銘……といっていいのかどうかはわからないけど、好きなフレーズとして挙げるとすれば、もうただただ、リヴァプールFCのいちファンとして、「You’ll never walk alone.」ですね。「君は一人で歩いているわけじゃない」という意味で、リヴァプールFCの応援歌でもあります。
――声優としても、めちゃくちゃいい言葉ですね……! 今まで演じてきたキャラたちの思いも背負って、一緒に歩いていくというか。
白井:全然そこまでは意識していなかったですけど、どちらかというと僕は自分が親になって、より好きになった言葉なんですよね。自分の子に対しては「僕らが付いてるからね!」という意味で伝えたい言葉でもあるし、僕自身が親や周囲の人に支えられてここまで来られたんだなって思える言葉でもある。
子どものとき、なんなら結構成長してからでも「これは自分一人の力でやった」と思い込んでることって、たくさんあるじゃないですか。でも、それって本当は自分だけの力じゃなくて、親とか周りの人たちとかがいるからできたことなんですよね。誰しも、一人で歩いているわけじゃないし、いろんな人の支えがあって困難も乗り越えられる。
僕は自分が親になったことで、親への感謝や尊敬の気持ちもより大きくなりましたし、この言葉がより深く刺さるようになりました。