声優としての転機になった
現場での思い出
――ご自身の中で、転機になった作品があれば教えていただけますか?
岡本:それはもう、2008年放送の『ペルソナ ~トリニティ・ソウル~』ですね。神郷三兄弟の長男を子安武人さん、三男を沢城みゆきさん、そして次男を僕が演じさせていただいて、沢城さんからも子安さんからも、本当に大きな学びをいただきました。
――沢城さんからは、どんなことを?
岡本:まず第一話で、沢城さんから質問攻めに合いまして……。おそらく、レコーディングの際に絵があまり出来上がっていなかったという状況もあって質問をしてくれたんだと思いますが、「今どこにいるの? どんなことを喋ったの? これ、なんでこう喋ったの?」と、それはもうガンガンに……。
ただ、当時の僕は声優としてまだ感覚的にお芝居しようとしていて、その質問にまったく答えられなかったんですよね。それで、はっきりと「これじゃダメだ」と自覚したんですよ。それで2話目以降から台本にびっしりと書いてからレコーディングにのぞむようにしたんですよ。いつ質問されても答えられるように。ただ、そこからは質問されることもありませんでした。
――「感覚的に演技する」というのが変わった瞬間だったんですね。
岡本:もちろん、感覚的な演技のほうが合う人もいると思いますが、僕にとってはそれが正解ではなかったんだと思います。
――子安さんからは、どんなことを教わったんですか?
岡本:子安さんには、最終話が終わったあとに『ペルソナラジオ』というWEBラジオのパーソナリティを引き受けていただいて、その時に言われたのが「ノブは、等身大でやろうとしすぎている。それだと全部がノブになるよ」と。
たしかに、『ペルソナ ~トリニティ・ソウル~』で演じた神郷 慎というキャラクターは当時の僕と、年齢もほぼ同じキャラクターだったので、自分の反応そのままをアニメに投影すればいいと思っていたんですね。そうしたら子安さんからは「そのやり方は、1回しか使えない」と……。
「キャラクターの魅力や個性は、一人ひとり違う。そのキャラクターの魅力をどう引き出すか、それを自分の中で決めていくのが声優の仕事だよ」。子安さんにかけていただいたその言葉は、今でもずっと声優として大事にしながら演技しています。
――そこから、キャラクターに対する向き合い方が変わっていったんでしょうか?
岡本:そうですね。多分、声優という仕事って演じるキャラクターの魅力を、その声優がどう考えるかで、初めて差が生まれると思うんですよ。例えば、ツンデレのキャラクターがいたとして、「僕はこのキャラのツンの部分が好きだから、ツンをもっと尖らせよう」という人もいれば、「ツンを際立たせるためにも、デレの甘さを突き詰めよう」という人もいる。
その解釈の違いでキャラクターの魅力の引き出し方は変わりますし、それが全体の方向性とマッチするのかという部分でも、それ以来考えられるようになりました。子安さん、沢城さんと出会えた『ペルソナ ~トリニティ・ソウル~』は、声優としての僕を形作る上で大きな転機になった、忘れられない作品ですね。
取材・文/郡司しう 撮影/清水 伸彦