第1話から気合全開。『進撃の巨人』との出会い
――今回のインタビューでは、11月に映画も公開される『進撃の巨人』について、深くお聞きしたいと思っています!まずは梶さんと同作品との出会いからお聞きできますか?
梶:最初の出会いは、本屋さんでしたね。第1巻が発売したてのころで、マンガコーナーに平積みされている表紙を目にしたのがきっかけで。もうインパクトが凄まじかったです。で、すごく気になって手に取ってみたら、みるみるその面白さに惹き込まれていって。
その後、アニメ化のタイミングでオーディションのお話をいただきました。当時の僕は、どちらかと言うと、やわらかい雰囲気の少年を演じることが多かったので、「チャンスがあるとすればアルミンかな」なんて思っていたんですが…ご指名いただいたのは、まさかのエレン役で。
最終オーディションは、エレン、ミカサ、アルミンの3役を、いろいろな声優が組み合わせ違いで演じていく掛け合い芝居での審査。僕は3回ほどエレンを演じさせていただきました。そして、その組み合わせのひとつに、実際のキャスティングとなる、ミカサ・石川由依さん、アルミン・井上麻里奈ちゃんという3人組もあって。
あ…これは裏話なんですが、最初の『進撃の巨人』のPVには、そのオーディションのときの音源が使われているんですよ。業界的にも、かなり珍しいパターンだと思います(笑)。
――そうなんですか?! めっちゃ面白い!
梶:すごいですよね!?(笑)。それから僕個人としては、荒木哲郎監督とは、前作『ギルティクラウン』で既にご一緒していましたし、音響監督の三間さんも、僕にとっては恩師のような存在なので、すごく安心感のある座組だなと感じていました。
原作も最高に面白いし、このチームなら、アニメーション作品としても絶対いいものになるだろうというイメージは浮かんでいたので、純粋に声優として参加したいと思いましたね。なので、結果的にエレン役として選んでいただけたのは、とてもとても嬉しかったです。
――『進撃の巨人』ならではの現場の雰囲気というのは、座長としてどんなふうに捉えていましたか?
梶:人間の生き死にを描いている、凄惨で残酷な作品なので…Season 1のときは緊張感がすごかったですね。あまり和気あいあいと話すような雰囲気ではありませんでした。収録が進むにつれ、少しずつみんな切り替えができるようになっていき、中盤からは普通に談笑もするようになりましたけど…Season 1のころは、本当にお葬式みたいな空気感でしたね。
出演キャストも、幅広い年齢・キャリアの役者さんが集まっていたので、主演として、まずなによりも、全身全霊で作品に向き合っているんだという"魂"を皆さんに伝えないことには現場の士気も上がらないだろうと思い、とにかく熱く、がむしゃらに役と向き合っていました。
©諫山創・講談社/「進撃の巨人」製作委員会
――第1話から現場の熱量がすごかったんですね。
梶:個人的には、第1話のラスト、目の前で母親を巨人に食い殺されてしまうシーンは"勝負"でした。それで全てが決まってくるだろうなと。演じ手のエネルギーや資質を問われる感覚。いまでも、その瞬間のマイク前での光景は鮮明に覚えています。
収録直後、プロデューサーさんが「梶のあの叫びを聴いて、“この作品いけるな”って確信したよ」と言ってくださって。それがすごく嬉しかったですし、間違いなく、その後、エレンを演じていく上での自信にもなりました。
――振り返ってみて、アフレコのときの思い出話とかはありますか?
梶:Season 3 第55話『白夜』というエピソードで「全身ボロボロで歯は抜け落ち、口内も腫れあがってしまっている」という状態のエレンを演じなければいけない瞬間があって。
たとえば「川で溺れている」とか「ものを食べている」みたいなセリフがあったとして、実際にその行為をせずとも"そう聴こえる芝居"ができるのが声優であり、それこそが、世界に誇るべき声優の技術のひとつだと思うのですが…この現場に関しては、少し違って。「そんなプライドとかテクニックなんてどうでもいいから、何よりも作品がより良く仕上がる方法をみんなで探そう」というマインドだったんですよね。
これは三間音響監督を筆頭に、荒木監督の作品づくりの姿勢としても共通していることで。そんな現場で育ってきた僕としては、「テクニックを披露するよりも、極力リアリティある音でお届けしたい」という思いが、台本をいただいた時から芽生えておりまして。
なので、「もし許されるならば、持参したパンを口に詰めて喋ってみてもいいですか?」とご提案してみたんです。(…実際に怪我をするわけにはいきませんからね(笑)。)きっと、口の中が腫れ上がっていたら、異物が入っているときのような喋りにくさがあるんだろなと。結果、テストを経た上で、ありがたいことにそのアイデアを採用してくださって、実際に、パンを口に詰めた状態でお芝居させていただきました。
とにもかくにも『進撃の巨人』は、このように、時間をかけて丁寧に作り上げてきた作品なんです。なので、ぜひこの裏話を聴いた上でもう一度見返していただけますと、スタッフ一同とても喜びます(笑)。
©諫山創・講談社/「進撃の巨人」製作委員会
――そういう即興アイデアで演技プランが決まることもあるんですね…! ちなみに共演者との思い出でいうといかがですか?
梶:物語が進むにつれ、エレンたち第104期訓練兵団にも仲間意識が芽生え、次第にチームになっていく様子が描かれていたように、キャスト同士の信頼関係も、それと近い部分があったように思いますね。
原作ベースのTVシリーズに加え、『進撃!巨人中学校』というパロディアニメの収録もあったりして、みんな少しずつ作品と現実の切り替えができるようになっていった気がします(笑)。収録後、そのままスタジオに残って人狼ゲームをしたり、かなり仲良くなりましたね。
――調査兵団のメンバーがまとまっていくのと同じような速度感で、キャストの方々も打ち解けていった……作品と連動しているのがおもしろいですね。
梶:そうですね。とはいえ、特にプライベートでの交流が多かったわけでもないことを考えると、いかに毎回のアフレコのなかで、その芝居で、お互いに分かち合える熱量があったのかを表しているような気がします。
――ちなみに梶さんは、人狼は得意なんですか?
梶:僕は、けっこうわかりやすいタイプですね(笑)。村人のときは、正義を盾に、喜び勇んで悪を断罪してしまうし、人狼のときに疑われると、過剰に否定したくなってしまうので…すぐに見破られてました(笑)。