カカシの人間性が集約された言葉

――せっかくお話が出たのでお聞きしたいんですが、井上和彦さんというと『NARUTO-ナルト-』のはたけカカシのイメージが強い読者も多いと思います。演じるにあたっては、どんなことを意識されていたんでしょうか?
井上:さっき『美味しんぼ』のところでお話したように、まずは普段と戦いのでの違いです。
普段は先生として、真面目な熱血教師の「真面目にどう引っ張っていこうか」という感じではなくて、「子供たちの気持ちをのびのびと開放しながら育てていこう」という、ちょっと一歩引いたお父さんのよう気持ちでナルトたちに接している感覚。

©岸本斉史 スコット/集英社・テレビ東京・ぴえろ
それがいざ戦いになったら、命を賭ける。「楽しいだけじゃダメだぞ」ということを、彼らに見せて教える、伝えるような気持ちは持っていました。
その空気感も、ただ現場だけで作ろうとするのではなく、第七班の役の子たちとはときどきご飯を食べに行ったりとかね。もちろん、そのためだけに食事に行っていたわけではないけど、そうやって、現実で僕たちの間に生まれた関係性が、作中のキャラクターたちの心情を立体的にしてくれる、ということもあります。
――じゃあ、井上さんが本当に第七班のメンバーにとっての先生的な存在だったんですか?
井上:そういう部分もあると思います。たとえば、成長して大人になったナルトを、ナルト役の竹内順子さんが「どう演じればいいんだ」といってすごく悩んでいたことがありました。
その時、竹内さんが僕のところに相談に来て、「こんなつもりでやればいいんじゃないかな」と声をかけたのが、すごく参考になったこともあったみたいで、現実でも師匠と生徒、みたいな感じがありました。
とはいえ、順ちゃんのほうがお芝居はうまいんですけどね(笑)。

©岸本斉史 スコット/集英社・テレビ東京・ぴえろ
――(笑)。それも少年マンガらしいといえば、らしいですね(笑)。
井上:そういうのも全部、飲みに行く言い訳といえばそうだったのかもしれないですが(笑)。
今はもう、みんな忙しくなってしまったので、集まったり遊びに行ったりとかはできないですけど、さっきもお話ししたみたいに『NARUTO-ナルト-』チームはたまに現場で会うと「飲みに行こうか」という話によくなっているような気がします。
年は離れていますけれども、いろいろなことが話せるいい仲間ですね。
――井上さんにとっては、はたけカカシはどんな人物に映っていますか?
井上:カカシのセリフの中に「忍者の世界でルールや掟を破る奴はクズ呼ばわりされる………けどな!仲間を大切にしない奴はそれ以上のクズだ」というセリフがあります。僕は彼のキャラクターとしての人間性はそこに集約されるんじゃないかと思っているんですよね。
それは指導者として人に教える立場である彼が、生徒に向けて発している言葉であると同時に、彼が自分自身に言い聞かせている言葉でもある。

©岸本斉史 スコット/集英社・テレビ東京・ぴえろ
――カカシの名言としても有名ですね!
井上:この言葉は、彼と父親との関係が如実に現れた言葉でもあるんです。
父親・はたけサクモは確かに勇敢な忍者だった。けれども、掟を破ってしまったことで迫害され、幼い自分(カカシ)を残して自死してしまう。カカシは、そんな父親と決別しようとする気持ちをもって成長してきた。だけど、どこかで父親の勇敢さを肯定したい気持ちもないまぜになっているんですよね。
ただの言葉どおりの名言なのではなくて、そこにカカシならではの複雑な思いがのっかることで、あの言葉はもっともっと深みが増すような気がします。
取材・文/郡司 しう 撮影/小川 伸晃