インタビュー

声優・阿部敦 ロングインタビュー #1

ATSUSHI ABE LONGINTERVIEW

忘れられない、芝居づけの夏合宿

声優・阿部敦

――大学を卒業してから、東京アナウンスアカデミー(その後、東京アナウンス・声優アカデミーと改名し、2018年をもって休校)に通われていたんですよね。

阿部:そうですね。そうやって親に決意表明をしたあと、まず「声優ってどうやってなるんだ?」という、しごく当然の疑問が浮かんできました。そこで、声優のお芝居について学んだことはないから、とりあえず養成所に行こうと思ったのがきっかけです。

当時は1年間通うと最後に賢プロダクション、マウスプロモーションさん、81プロデュースさんの三社で、クラス8〜10人ごとに合同オーディションをしてくれていたんですね。その面接で、賢プロの現社長と話が結構盛り上がって、いまの事務所に引っ張っていただきました。

――それから、賢プロさんのスクールデュオにも通われました。養成所時代の経験で、何かその後に「活きている」と感じるものってありますか?

阿部:スクールデュオでいうと、いまの受講生もみんな経験するんですが、岐阜県、飛騨高山での恒例の夏合宿があるんですね。

で、今はもう少し緩くなっていると思いますが、当時は結構ガチめな合宿で(笑)。合宿中にはとにかくセリフも覚えなきゃいけないし、教えられることは多いしで、もう缶詰でみんな寝る間も惜しんでひたすらお芝居に向き合うという……。

――それは厳しそうですね……! 内容的にはどんなことをするんですか?

阿部:それはもう人形劇から、ナレーション、即興劇までいろいろ……。例えば人形劇でやっていたのは、ちゃんとした日本語のセリフはあるけど、まず最初にそのセリフをすべて果物に置き換えてやってみるんです。もちろん演技は込みで。

――え? ……それって「バナナ……バナ〜ナ?」「メ、メロン……」という感じでやるっていうことですよね?

阿部:そうですそうです(笑)。

というのも、セリフが日本語ではなくても、言う側が意味さえわかって言えていれば、なんとなく情景は見えてくるものなんです。ただ観ている人に情景を見せるためには、言う側が言葉の意味を深く理解していないといけない。

その授業では観ている側が、大体どんなことを言っているのかを書き留めておいて、あとで日本語でお芝居をし直して、答え合わせすると言う感じでやっていました。

声優・阿部敦

――めちゃくちゃ面白そうですね。

阿部:あとは、「新聞の対談記事まる暗記」とか(笑)。

これはペアになってやるんですけど、授業後に覚えなきゃいけないから、どうしてもみんな深夜までかかってしまうんですよ。だから、みんな一睡もできないみたいな状態の人もいて……。

そんな中で僕は「寝ないと記憶定着もしないから!」と言って、積極的に寝ようとするタイプだったんですけどね(笑)。

――また持ち前の素直さが!(笑) でも過酷な分、いい経験ですよね。

阿部:そうですね。教えてくれる講師の方たちもプロばっかりなので、ああやって短期間でというのはすごく濃密な時間だったなと思います。それと自分だけだと、いくら頑張って取り組もうと思っても、あそこまでは追い込めないんですよね。

周りの人たちと一緒になって、ある意味、逃げもできない環境でやるものだから(笑)。絶対必要だ、とは思いませんが、人生のうち、一度はああやって自分のことを追い込んでみる経験というのも貴重な経験だと思います。

アニメ『Free! – Dive to the Future-』
当時の思い出と演じたキャラへの思い

Free! – Dive to the Future-

――2018年に3期が放映されて、『劇場版 Free!-the Final Stroke-』が2021〜2022年にかけて公開。いまだに根強い人気がある作品で、阿部さんは岩鳶高校の早船ロミオ役でご出演されていました。アフレコの時の思い出話はありますか?

阿部:競泳をテーマにした作品って、じつはめずらしいじゃないですか。だから実はアフレコに臨むまで「息継ぎの演技ってどうやるの?」っていうのを知らなくて(笑)。

現場に行ってみたら、葉月渚役で同期の代永翼くんはじめ、前々からやっているキャストがたくさんいたので、それを観ながら「なるほど、こうやるのか!」とその場で学んで、本番ぶっつけでやっていた記憶があります(笑)。

確かに、水泳の息継ぎの演技なんてなかなかないですもんね!演じられた早船ロミオについては、どんな印象でしたか?

Free! – Dive to the Future-

阿部:最初の頃は、「彼はどんな人なんだろう」と思っていたんです。登場したすぐの頃は、ちょっといけすかない感じにも見えるので。でも、話が進んでいくうちにどんどん素直ないい子だなということがわかって、すごく安心したのを覚えています。

そういう子で根が真面目だからこそ、作品の中ではイップスに陥ってしまう一面もあると思うんですよね。それを仲間の協力を得て、克服していく。「あ、これって現実世界でもあることだな」と思いながらアフレコしていました。

——本当、そうですね。あのロミオが飛び込みを克服する姿を観て「この子たちなら、岩鳶高校を任せても大丈夫だな」と思ったファンは多いと思います。

阿部:そうそう。彼は新一年生なので、先輩の背中を見たり、影響も受けたりしながら、だんだんと「自分が岩鳶高校水泳部を継いでいく」というような気持ちが出てくるシーンがちょっとずつあって、そこはやっぱりいいなと思いましたね。

おそらく、いま彼は水泳を頑張っている最中だと思うので彼のアフターストーリーも、どこかで見てみたいなと思います。

声優・阿部敦

取材・文/郡司 しう 撮影/小川 伸晃

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