2026年9月23日(水)更新
日本人メジャーリーガーの快音が鳴り止みません。9月8日(現地時間)、トロント・ブルージェイズの岡本和真選手がオークランド・アスレチックスのジャック・パーキンス投手から30号ホームランを放ち、これによりロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手、シカゴ・ホワイトソックスの村上宗隆選手との“30発トリオ”が誕生しました。9月16日現在、10試合を残してシカゴ・カブスの鈴木誠也選手も24本塁打。“日本人30発カルテット”の誕生も夢ではありません。
日本人選手で、初めて本塁打数を30本台に乗せたのは、ニューヨーク・ヤンキース(当時)の松井秀喜選手です。2004年、ア・リーグ11位タイとなる31本塁打をマークし、日本人の留飲を大いに下げさせてくれました。
MLBで通算175本塁打をマークした松井さんですが、30本以上は、この1度だけ。そのためMLBでは長距離砲というよりは、中距離砲と長距離砲の中間、といった位置付けでした。
「日本では50本(2002年)打っている松井でもMLBでは30本ちょっとか……」
突き付けられた現実を前に、思わず腕組みをした日本人も少なくなかったはずです。
こうした日本人のパワー・コンプレックスを、木っ端みじんに打ち砕いてくれたのが大谷選手です。ロサンゼルス・エンゼルス入団4年目の21年、46本塁打をマークすると、22年=34本塁打、23年=44本塁打、ドジャースに移籍した24年=54本塁打、25年=55本塁打、26年=30本塁打(日本時間9月16日現在)と6シーズン連続で30本塁打以上を記録しています。ホームラン王には2度(23年=ア・リーグ、24年=ナ・リーグ)輝いています。
今シーズンは6月中旬から左膝に炎症を起こし、7月に入ると右上腕二頭筋の張り、そして9月に入ってからは首の違和感を訴えるようになりました。二刀流の疲れが出てきたのかもしれません。9月9日(日本時間)には故障者リスト入りを余儀なくされました。
さて突然ですが、「バニスター効果」なる言葉をご存知でしょうか。ひらたく言えば、「それまで不可能だと思われていた壁を、誰かが突破すると、その後多くの人が次々と同じ壁を突破するようになる」という人間心理と社会現象を指します。
陸上の1マイル競争(約1600メートル)は、1923年8月にフィンランドのパーヴォ・ヌルミ選手が4分10秒4で走って以来、長きに渡って破られることがありませんでした。
1945年に4分1秒4まで短縮されましたが、それでも「4分を切ることは医学上考えられない」というのが、当時の医師たちの共通見解で、「1マイル4分の壁」は「brick wall(れんがの壁)」と呼ばれたりもしました。
そこに現れたのが英国のロジャー・バニスター選手です。54年5月、英国のオックスフォード大学など6校による1マイル競争で3分59秒4という世界記録をマークすると、なんとその7週間後には、オーストラリアのジョン・ランディ選手が3分58秒0というとんでもないタイムを叩き出し、バニスター選手の記録を、1秒4も縮めてみせたのです。
ルーキーながら、ホームランを30本台に乗せた村上選手と岡本選手のパフォーマンスは、どれだけ称えても称え過ぎるというものではありません。
MLB開幕前にWBCに出場し、MLBで活躍する選手のボールを、しっかり“目慣らし”できたことがよかったのかもしれません。
加えていえば“バニスター効果”です。長距離砲としての大谷選手のMLBでの活躍が、“心理的な壁”を取り除く上で、大きな役割を果たしたことは言うまでもありません。“日本人30発カルテット”が誕生した際の大谷選手のコメントに注目しましょう。

二宮清純
1960年、愛媛県生まれ。
スポーツ紙や流通紙の記者を経てフリーのスポーツジャーナリストとして独立。オリンピック・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。明治大学大学院博士後期課程修了・博士(学術)。広島大学特別招聘教授。大正大学地域構想研究所客員教授。「スポーツ名勝負物語」「勝者の思考法」など著書多数。