2025年10月22日(水)更新
そのシーズン、リーグで最も活躍した選手に贈られるMVPは11月中旬に発表されます。ナ・リーグではロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手の3年連続(2021年・ア、23年・ア、24年・ナ)4度目の選出が濃厚です。
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今シーズン、打撃では打率2割8分2厘、55本塁打、102打点、146得点、20盗塁。投げては6月に投手復帰後、47イニングを投げ、1勝1敗、防御率2.87、62奪三振。MLB史上初の「50-50」(55本塁打、62奪三振)も達成しました。
大谷選手のライバルと目されているのが、56本塁打で自身2度目のホームラン王に輝いたフィラデルフィア・フィリーズのカイル・シュワーバー選手です。投票権を持つ記者の一部からは、シュワーバー選手を推す声もあるようですが、競馬風にいえば“対抗止まり”の評価が妥当ではないでしょうか。
さて、MLBにおけるMVP3度以上獲得の選手を見ていきましょう。
7度 バリー・ボンズ (ナで7回)
3度 ジミー・フォックス (アで3回)
〃 ジョー・ディマジオ (アで3回)
〃 スタン・ミュージアル (ナで3回)
〃 ロイ・キャンパネラ (ナで3回)
〃 ヨギ・ベラ (アで3回)
〃 ミッキー・マントル (アで3回)
〃 マイク・シュミット (ナで3回)
〃 アレックス・ロドリゲス (アで3回)
〃 アルバート・プホルス (ナで3回)
〃 マイク・トラウト (アで3回)
〃 大谷翔平 (ナで1回、アで2回)
仮に大谷選手が4度目のMVP受賞となれば、単独2位に躍り出るのです。上には7度のボンズさんしかいません。
ボンズさんはピッツバーグ・パイレーツで2回(90、92年)、サンフランシスコ・ジャイアンツで5回(93、2001、02、03、04年)MVPに輝いています。
私見を述べれば、90年代前半の3回の受賞と、2000年代前半の4回の受賞は趣を異にします。
もともとボンズさんは、トリプルスリー(打率3割以上、30本塁打以上、30盗塁以上)を3回も達成するなど、走攻守三拍子揃ったMLB屈指の外野手でした。96年には42本塁打、40盗塁で史上2人目の「40-40」(40本塁打以上、40盗塁以上)を達成しました。
オールラウンドプレーヤーのボンズさんが筋肉増強剤を使用し始めたのは、99年からだと言われています。その背景には何があったのでしょう。
前年の98年には、セントルイス・カージナルスのマーク・マグワイアさんとシカゴ・カブスのサミー・ソーサさんが驚愕のホームラン王争いを演じ、マグワイアさんは70本、ソーサさんは66本も打球をスタンドに叩き込みました。
後に2人とも筋肉増強剤の使用が明らかになるのですが、ボンズさんの心中は複雑だったはずです。MLBの話題の中心はマグワイアさんとソーサさんで、自らは脇に追いやられてしまいました。「アイツらだけがドーピングでいい目を見やがって……」。そんな思いが芽生えていたのかもしれません。
筋肉増強剤の効果はてき面でした。00年、キャリアハイとなる49本塁打をマークしたボンズさんは、翌01年、MLB史上最多となる73本塁打を記録し、8年ぶりのMVPに輝くのです。02、03、04年もMVPで4年連続。MLB機構が正式に筋肉増強剤の使用を禁じたのは04年に入ってからとはいえ、倫理的、道義的な責任は免れないでしょう。
MLBにおける薬物汚染が明らかになって以降、MLBの一部の関係者からは、薬物使用疑惑のある選手の記録に関してはアスタリスク(*)を付けようという声が上がりました。つまり注釈付きということです。01年以降のボンズさんの4度のMVPも、その対象となります。
こうした点を踏まえると、クリーンな大谷選手が4度目のMVP受賞となった場合、その価値は計り知れません。掛け値なしのヒストリー・メーカーです。
二宮清純
1960年、愛媛県生まれ。
スポーツ紙や流通紙の記者を経てフリーのスポーツジャーナリストとして独立。オリンピック・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。明治大学大学院博士前期課程修了。広島大学特別招聘教授。大正大学地域構想研究所客員教授。「スポーツ名勝負物語」「勝者の思考法」など著書多数。