2025年7月23日(水)更新

捕手で首位打者狙うW・スミス
黒衣に徹し、攻守でチーム牽引

 激務のキャッチャーが、打撃タイトルを獲得するのは容易ではありません。そんななか、ロサンゼルス・ドジャースのウィル・スミス捕手が7月21日現在(現地時間)、打率3割2分6厘で、ナ・リーグの首位打者争いのトップに立っています。仮に首位打者のタイトルに輝けば、ドジャースの捕手としては史上初になります。

ドジャース(大谷翔平・山本由伸・佐々木朗希所属)の放送予定はこちら

マウアーとポージー

 近代野球が確立したとされる1901年以降、ドジャース(ブルックリン時代含む)からは、延べ11人の首位打者が出現しています。

 1913年 ジェイク・ドーバート  3割5分(内野手)
 1914年 ジェイク・ドーバート  3割2分9厘(内野手)
 1918年 ザック・ウィート    3割3分5厘(外野手)
 1932年 フレティ・オドール   3割6分8厘(外野手)
 1941年 ピート・ライザー    3割4分3厘(外野手)
 1944年 ディクシー・ウォーカー 3割5分7厘(外野手)
 1949年 ジャッキー・ロビンソン 3割4分2厘(内野手)
 1953年 カール・ファリロ    3割4分4厘(外野手)
 1962年 トミー・デービス    3割4分6厘(外野手)
 1963年 トミー・デービス    3割2分6厘(外野手)
 2021年 トレイ・ターナー    3割2分8厘(内野手)

 もっとも、他の球団に目を移すと、ミネソタ・ツインズ一筋で15シーズンにわたってプレーしたジョー・マウアーさんが、2006年(3割4分7厘)、08年(3割2分8厘)、09年(3割6分5厘)と3度にわたってア・リーグの首位打者を獲得しています。

 打つだけではなく、強肩、堅守の好捕手として、シーズンMVPに1度(09年)、ゴールドグラブ賞に3度(08、09、10年)選出されています。

 マウアーさんが、ツインズ一筋なら、こちらバスター・ポージーさんはサンフランシスコ・ジャイアンツ一筋12年の名捕手です。2012年には打率3割3分6厘でナ・リーグの首位打者とMVPに輝き、チームのワールドシリーズ制覇に貢献しました。

小柄なプリンス

 さてドジャースで“打てる捕手”といえば、真っ先に名前が思い浮かぶのが、野茂英雄さんとコンビを組んだことで、日本人にも馴染みの深いマイク・ピアザさんです。97年には152試合に出場し、キャリアハイ(3割6分2厘、40本塁打、124打点)の打撃成績を記録しています。

 蛇足ですが、ピアザさんが初めて野茂さんのボールを受けたのは、95年2月のベロビーチでのスプリング・トレーニングです。初めて目にする野茂さんのフォークボールに目を丸くしながら、こう語ったものです。

「あんなボールを見たのは初めてだよ。トム・キャンディオッティのナックルボールもナスティ(厄介)なボールだけど、野茂のスプリット(フォークボール)はそれ以上さ」

 ネット裏から肩の弱さを指摘されることもあったピアザさんですが、野茂さんによると「リードは巧いですよ」とのことでした。

「彼は、僕が“これでいきたい”という場面では、必ずそのボールを要求してくれる。初めてのノーヒッター(96年9月17日、コロラド・ロッキーズ戦)もピアザのリードには随分、助けられましたよ」

 話をスミス捕手に戻しましょう。ニックネームの“フレッシュ・プリンス”は、同姓同名のハリウッドスター、ウィル・スミスさんのラッパー時代の芸名にちなみます。

 屈強なフィジカリティが求められるポジションにも関わらず、スミス捕手は身長178センチ、体重89キロと、メジャーリーガーとしては小柄です。それでいて守備は堅実で、スローイングも安定しています。

 ドジャースのデーブ・ロバーツ監督は「彼はバニラのように安定していて、良さがわかりづらい」と語っています。バニラはアイスクリームで最もポピュラーな種類です。地味で平凡ではあるが、なくてはならない存在だとロバーツ監督は言いたいのでしょう。

 大谷翔平選手、ムーキー・ベッツ選手、フレディ・フリーマン選手の“MVPトリオ”が牽引するドジャースにあって、主に4番を任されながら“黒衣”に徹するスミス捕手の献身を忘れてはいけません。

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二宮清純

二宮清純 スポーツジャーナリスト

1960年、愛媛県生まれ。
スポーツ紙や流通紙の記者を経てフリーのスポーツジャーナリストとして独立。オリンピック・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグ、ボクシングなど国内外で幅広い取材活動を展開。明治大学大学院博士前期課程修了。広島大学特別招聘教授。大正大学地域構想研究所客員教授。「スポーツ名勝負物語」「勝者の思考法」など著書多数。

メジャーリーグもプロ野球も。

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